新しい創傷治療:フローズン・ライタ

《フローズン・ライター "BELOW ZERO"★★(2011年,カナダ)


 またも見ちゃいました,かなり微妙というか,かなり面白くないカナダ製映画。カナダ映画には本当に地雷作品が多いな。一言で言えば,冷凍庫に幽閉された脚本家が身の回りに起こる不思議な出来事に振り回されながら脚本を書き進め,次第に現実と妄想の境目がなくなっていく恐怖を描いた,一種のシチュエーション・サスペンス・ホラー映画。

 冷凍庫内で外に出られない脚本家の様子と描きながら,彼が書き進めていく脚本による映画を「劇中劇」として同時進行させる,というかなり凝った作りになっているのですが,この劇中劇の設定自体は面白いのに繰り返しが多すぎて眠くなってくるし,どこまでが現実でどこからが妄想なのかがちょっとわかりにくいし(もちろん,そのあたりを狙っている映画なんですけどね),ラストも呆気なさすぎというか,ほとんど投げっぱなしですね。途中でこれ以上考えるのが面倒になっちゃったんでしょうね。


 脚本家のジャック(エドワード・ファーロング)は長いスランプに落ち込んでいて,新しい作品を書けないでいた。そしてエージェントから「5日間で新作を完成させなければ契約破棄!」と言い渡される。そしてエージェントは,ジャックを極限状態に追い込むことを考えて,田舎町の精肉工場の冷凍庫に5日間缶詰状態にして書かせることを思いつく。

 冷凍庫の提供を申し出たのはシングルマザーのペニー(クリスティン・ブース)だった。彼女はジャックを冷凍庫に案内し,必要な物は全て揃っているが,内側からはドアは開けられないと告げ,さらに,自分で書いた「恐怖工場」という脚本を手渡し,暇つぶしに読んでほしいという。

 そこで彼は「一人の男が車の事故で怪我をし,助けを求めて近くにあった精肉工場に入るが,そこにはシリアル・キラー(マイケル・ベリーマン)が死体を切り刻んでいる現場だった」というホラー映画の脚本を書き始める。

 しかし,冷凍庫の外からは断続的にタイプライターを叩く音が聞こえたり,ドアに何かがぶつかる音が聞こえたりするなど不思議な現象が起こり始め,ついには,目が覚めるとペニーが両腕を吊るされている。男がいきなり侵入し,「ジャックが脚本を描き上げないと,1時間毎に室温を1℃ずつさげ,それでも完成しなければお前の息子を殺す」と脅し,縛り上げたのだという。果たしてジャックは脚本を描き上げられるのか,ジャックとペニーは外に出られるのか,ペニーの息子を救えるのでしょうか・・・という,映画でございました。


 主演のエドワード・ファーロングといえば《ターミネーター2》で世界中の女性(ちょっと大げさ)を夢中にさせた「超美形美少年」でしたが,もうそれから幾年。すっかり普通のおじさんっぽくになっています。ま,昔の面影はかすかに残ってますけどね。

 ペニー役のクリスティン・ブースさんは初めて見る方ですが,こちらは思いっきり普通のおばちゃんです。話すたびに鼻をプガプガ鳴らす癖があって,この人が話し始めると「また鼻が鳴らせるんだろうな。鬱陶しいな」という気分になります。実際,この人がしゃべり始めるとプガプガの連続で,興ざめも甚だしいです。なんでこんな「鼻鳴らしおばちゃん」を選んじゃったのでしょうか? 途中でブラ姿になるところが1箇所ありますが,巨乳のかけらも色気のかけらもなく,単にウエストが残念なコトになっているおばちゃん,です。このブラ姿シーンはカットして欲しかったです。

 この冴えない二人とは対照的に,圧倒的な存在感を見せているのが,劇中劇のシリアル・キラー,ガンナーを演じるマイケル・ベリーマンです。死体をバラバラにするシーンは直接映しませんが,とにかく顔自体が怖いし,それだけで大迫力です。「写っているだけで絵になる」とはこういう老雄のことを言うんでしょう。いやはや,すごいもの見ちゃったなぁ。ちょっと昔の《サランドラ》という映画が一番有名ですが,最近でもいろいろな作品に出演なさっています。いつまでも元気でいて欲しい俳優の一人です。


 で,肝心の映画なんですが,設定が凝り過ぎちゃって結果として残念なことになっちゃったな,という見本のような感じです。現実に起きている怪現象と,それを説明するかのような劇中劇の同時進行というのは悪く無いとしても,ペニーを縛り上げた男は実はエージェントだということがわかりますが,スランプの脚本家に脚本を書かせるためにそこまでするのはおかしいし,途中のタイプライターの音も最後まで説明なし。劇中劇だけ見ていれば「架空のホラー映画」なんで妖怪が出ようがシリアル・キラーが登場しようがモンスターが出現しようが構いませんが,最初の設定はあくまでも現実世界なんだから,余りに現実離れしちゃうと困るんですよね。

 それに第一,スランプ中でアイデアが枯渇した脚本家を缶詰にしてもいいアイデアが生まれるわけないんですよね。缶詰にして有効なのは「アイデアが豊富で仕事もできるんだけど,遊び好きで仕事をしてくれない」場合だけです。だから,「脚本家を冷凍庫に監禁する」というアイデアを活かすなら,脚本を書かせるため,以外の理由付けのほうがよかった気がします。


 あと,せっかく冷凍庫というあまり例を見ない条件設定にした割には,それが全く生かされていません。次第に温度が低くなる様子が描かれているわけでもないし,いきなりペニーが凍傷にかかるだけです。ここらも映画作りが下手ですね。

 あと,個人的に面白かったのは,最初のしょうもないアイデア(道に迷った男が精肉工場に入ったら殺人鬼が・・・)を次第に肉付けしていって,段々マシな脚本に近づいていく様子が描かれていること。なるほど,こうやって肉付けしていくのか。


 というわけで,普通の映画ファンはスルーしていい映画です。

(2014/01/03)

Top Page