『アインシュタイン 相対性理論の誕生』(安孫子誠也,講談社現代新書)


 1905年は物理学の奇跡の一年だった。この年,26歳の若きアインシュタインは3月から6月の4ヶ月間,3つの偉大な論文 −ブラウン運動の理論,光量子論,特殊相対性理論− を発表している。そして,この3つの論文により,近代物理学は現代物理学に変貌し,この3つの論文が及ぼした影響は計り知れない。

 しかし当時,アインシュタインは特許局に努めている一介の26歳のサラリーマンに過ぎなかった。そんな若造がなぜ,物理学を根底から変える発見ができたのかを,彼の論文,書簡,講演緑から丹念に解きほぐしたのがこの本だ。


 彼はそれまでの物理学の基本原理とされていた「ニュートン力学,マックスウェルの電磁理論,熱力学」のうち,熱力学の第1法則(エネルギー保存則)と熱力学第2法則(エントロピー増大則)のみが決して破棄される事のない原理だと考えていた。他の2つの原理は,現時点では疑いようのない真理とされているが,それはあくまでも限られた条件下だけだろう,と彼は考えたわけである。

 要するに彼は,ニュートン力学にしても電磁気学にしても,時間と空間がどこでも変わる事のない不変のものだ,ということを前提に理論が組み立てられている事に気がついていたのだ。

 物理に限らず,どんな条件下でも成立する法則が正しいに決まっている。地球上では取りあえず成立しているが,太陽にうんと近い場所では成立するかどうかは不明,という理論では厳密さに欠けているのである。同時に,真実なるものはシンプルで美しい。数学の問題を証明する方法が二つあったとしたら,シンプルな方が選ばれる。彼が求めたのは,そのようなシンプルさと美しさで,この世界の物理現象を説明する理論だったのだ。


 彼は熱力学について次のように述べている。

「理論というものは,前提が単純であればあるほど,またより関連付ければ関連付けるほど,さらにその適用範囲が広ければ広いほど,強い感銘を与えるものである。それ故に,古典熱力学は私に強い感銘を与えたのであった。それは普遍的な内容を内含する唯一の物理理論であり,その基本概念の適用範囲内において,この理論が破棄される事は決してないと私は確信している」


 熱力学第1法則と第2法則はシンプルで美しい。そして,この二つの法則はいかなる物理的環境下でも成立しているはずだと彼は確信し,更に敷衍し,より一般的な法則に拡大できないかと思索し,光速があらゆる運動系でも一定である,という真理を基にすれば強固な物理理論が作れる事を見出す。それが特殊相対性理論だった。そして彼は,特殊相対性理論が等速運動系に限定されている事に不満を持ち,あらゆる加速運動をする系でも成立する理論に拡大する事に成功し,それは一般相対性理論として結実する。


 1922年にアインシュタインは来日し,京都で「いかにして私は相対性理論を創ったか」という講演を行っていて,本書ではその全文の翻訳が掲載されているが,これが非常に面白い。彼の発想の原点はどこにあるのか,従来の理論(ニュートン力学など)のどの点に疑問を持ったのか,その疑問からどのようにして思考を発展させたのか,その理論を組み立てるのに何が必要だったのかを,非常にわかりやすく,明晰に説明している。これを読むだけでも,本書を手に取る価値があると断言する。

(2004/03/15)

 

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