『アメリカ病』(矢部 武,新潮新書)
 これは長年アメリカに住んでいたフリーのジャーナリストが,現在のアメリカの病的症状を克明に描いた本だ。
 精神科通いがごく当たり前で,70歳,80歳の老人たちが競って美容外科手術を受け,子供の頃からジャンクフードが大好きで,健康も大好きなんでサプリメントや薬が大好き。
 自分が太ったのはマクドナルドのせいだと訴訟を起こし,女子大の寮に入ると過激な拒食競争が始まり,皆で食事後に吐くため下水の配管は胃液で腐蝕。
 年間3万人が銃で殺されているのに(数字だけ見ればこれは立派な内戦状態である),NRA(全米ライフル協会)は銃規制の発言をする議員を次々に失脚に追い込むのに忙しい。
 中絶は聖書に反する行為だから,中絶をする医者は殺すのが神の御心に適う行為だとする団体が大きな力を持ち,中絶手術をしている産婦人科医院に爆弾が投げ込まれるのも珍しいことじゃない。その結果,中絶を望む女性が非合法の医者にかかって死亡しようとお構いなし。そして,これこそが神の指し示す正しい道と心から信じている。

 自分達の正義は世界の正義であり,その正義を世界に広めるのが正しい道であり,それ以外の価値観は悪だと思っている無邪気な人達。ポジティブシンキングで全てが解決でき,ポジティブに考えられないのが間違っていて,病気が治らないのも貧乏なのも全て気持ちの持ちようだと,ポジティブシンキングを押しつける人達。

(2003/06/02)

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