《THE THING》★★(2005年,アメリカ)


 ううむ,微妙な映画だな。全く面白くないとも言えないし,面白かったと褒めるほどでもないし,クズ映画と罵倒するほどじゃないけど,人にお勧めするほどの作品でもない。ホラー映画としては全然怖くないし,スプラッターシーンもちょっと見せるだけ,と,全てにおいて中途半端な感じだったな。「暇つぶしになるかならないか,微妙なライン」といったらいいかな?


 ストーリーはシンプルです。主人公の女性ダニエルは森林警備隊員。彼女は親友ジュリーを交通事故で死なせたという悲しみから立ち直れないでいて,森の奥の監視塔に一人で勤務していますが,酒浸りの日々を送っています。その森にある調査隊が入り,先住民族の言い伝えの調査をしていて,ある洞窟への入り口を見つけて爆破しますが,そこに眠っていた(?)恐ろしい奴が目覚めてしまい,殺戮を始める,という内容です。

 こういうタイプの「古代の悪霊が目覚めて暴れ出した」というモンスターホラー映画,よくありますよね。いわば,定番といってもいいでしょう。このタイプの映画が成功するかどうかはひとえに,そのモンスターの存在をあたかも実在するかの如く説明できるかどうかにかかっています。また,モンスターといってもどこかに弱点がなければ倒せないわけで,そういう理由付けというか謎の解明の過程もきちんとして貰わなければ,見ている方としては困ります。

 この映画の欠点はまさにこの点なのです。一番最後の方に登場する「先住民族に言い伝えを研究している教授」が一応説明してくれますが,これで納得しろと言われてもなぁ,という程度の説明なんですよ。おまけに,謎解明なしでストーリーだけが進むため,一体,誰が何のためになぜ殺戮を始めたのか,見ている方は訳が判りません。70分間,観客は放置プレー状態です。


 おまけに,映画の進行が遅くて遅くて,なかなか先に進まなくて,最初の犠牲者が明らかになるのは,映画開始から40分です。その前に主人公のいる監視塔の屋根に何かが登ったり,車がひっくり返されたり,通信機器が全て壊されたりするんだけど,モンスターは一瞬一部が見えるだけで,それ以上何も起こりません。

 そのまったりとした進行をさらに遅くするのが,主人公ダニエルの「親友を交通事故で殺してしまった」という罪の意識の告白と,何度も繰り返される事故シーンのフラッシュバック。要するに作り手側としては,単純なモンスターホラー映画にしたくないという意識があって,それで主人公のトラウマを絡め,そのトラウマの克服,という精神ドラマと平行して描きたかったんだろうけど,全然これがかみ合ってないため,単なる「トラウマに悩むお姉さんが怪物を倒して立ち直りました」という映画としか見えません。

 おまけに,一人悩むダニエルだけじゃ駄目だろな,という配慮から,彼女の恋人ジャスティン(同じレンジャー部隊)も登場させ,長々と会話シーンがあったり,ちょっぴりラブシーンがあったりします。これがさらにまったりとしていて,緊張感を殺いでしまいます。

 ちなみにダニエル役の女優さん,とても美人で見事な巨乳でドキドキしますが,胸の谷間しか見せてくれませんので,そっちの方面は期待しないで下さい。


 で,このモンスターの正体ですが,上述の教授によると「人間の卑しい心と結びついた神話上の獣のいらついた魂」なんだそうです。おいおい,説明ってこれだけ? それで納得しろと?

 さらに教授は続けます。「ゼウスは洞窟で育ち,イエスは洞窟に埋葬された。現世は洞窟で霊界と繋がっているのだ。洞窟に通じる崖を爆破したためにこの世に出てきたのだ」,と。これで納得しろと? これじゃ説明にもなってないじゃん。これなら,「邪悪な魂を封じ込めたピニャータ」の方がまだ納得できるぞ。

 しかもこの教授の説明によると,「神話によれば殺してもまた再生する。水が苦手だ。かつて女だったので優しさが少しだけ残っている」のだそうです。ところが,雷雨の中を逃げるダニエルを追ってくるし(=水に弱くない),ダイナマイトで爆破して倒せるし(=殺したのに再生しない),全然説明と違っているじゃないか。

 ちなみに,モンスター君の全身像が映されるのは,映画も残り10分くらいになってからです。ちょっと見には《スピーシーズ》のエイリアンの安っぽいパチモンです。


 さらに,ダニエルちゃんが犠牲者たちを葬るシーンが何度もあります。おまけにモンスターがしつこく墓を掘り起こして死体を部屋の中にオブジェみたいに置いたりして(死体の様子はかなりグロいけど,短時間しか映さないからあまり怖くないよ),その死体をまたダニエルちゃんが改めて埋葬するんですが,死体一つを埋める穴を掘るのって大変ですぜ。そういう暇があったら,もっと別の方向にエネルギーを使うべきだったような気が・・・。


 しかし,この映画最大の謎は主人公ダニエルちゃんのお化粧です。事件が起きてから解決するまでに5日間くらいかかっているはずで,その間,食事はどうしているんだろうとか心配になります。当然,お化粧なんてしている暇はないはずなんですが,前夜,雷雨の中を歩いたはずなのにアイシャドーは流れていないし,アイラインもばっちりと決まっています。眉もきれいに描いています。この5日間の惨劇を生き延びたにしては,ダニエルちゃんのお化粧,全然崩れていません。ある意味,これが一番謎でした。

(2007/02/00)

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