《トランスポーター2》 (2005年,フランス)


 杜撰なプロットを適当につなげただけの安物アクション映画を作らせたら天下一品,それがリュック・ベッソン先生です。前回の《トランスポーター》もひどかったですが,今回も期待を裏切らない無茶苦茶ぶりで笑わせてくれます。

 まず,《トランスポーター2》と名乗るのであれば,最低限のルールとして,主人公の職業や性格などの基本設定は第一作目と同じというのが常識ですよね。たとえて言えば,《釣り馬鹿日記1》で主人公が釣り好きのサラリーマンだったら,《2》では主人公の浜ちゃんがゴルフが趣味の公務員だったりしない,ということです。ところがこのトランスポーターは第2作目にしてこの大原則を破っちゃう。

 というのも,この映画の主人公,フランク君は本来,トランスポーター,つまりちょっとやばい物(ブツ)の運び屋で,「依頼主の名前を聞かない,中身を聞かない,中身を開けない」というのを三原則にしている,という設定で登場したはずなのに,この第2作目のフランク君は運び屋さんでもなければ,三つの原則(ルール)も登場しません。単なる子供の送り迎えをする運転手さんです。割のいいバイトなのかもしれませんが,それなら,トランスポーターなんてタイトルを付けるなよ。


 このシリーズにはウザいほど,「ルール(原則)」ってのが出て来るんだけど,それでいくと,このこのシリーズのルールは次の4つですね。

  1. ルールその1:スポンサーの車には傷一つ付けない(ちなみに今回のスポンサーはアウディです)
  2. ルールその2:フランクはどんな格闘シーンでも銃撃シーンでも怪我一つしない。
  3. ルールその3:いい女は必ずフランクに言い寄ってくる。しかし,フランクのどこに惹かれたのかは全然描かない。
  4. ルールその4:説明が不可能なシーンがあっても気にしない。

 以下,ネタバレしまくりで書きますが,ま,この程度の映画でネタバレも何もないでしょう。とにかく,あらすじも細部も破綻しまくっているムチャクチャ映画です。


 大雑把にまとめると,フランクが送り迎えしている子供というのが,1年くらい前から夫と別居している女性の子供で,その夫というのが「世界麻薬撲滅サミット」とかいうのを主催するほど,この方面では有名人。それで,コロンビア・マフィア(?)がこの息子を誘拐して空気感染性のウイルスに感染させて自宅に帰し,父親とサミット出席者全員に感染させて殺し,麻薬がどんどん売れるようにする計画をたてたんだよ,となります。

 まず,このプロットを読んだだけで,すごく不自然というか,雑なストーリーだなぁ,とおもいませんか? こんな手の込んだことをするくらいなら,ウイルスに感染させた手下にサミットに潜り込ませて咳をさせ,そのあと手下に抗体(映画では解毒剤といっていたけど,ま,いいや)を注射すればいいわけですよね。あるいは,この父親を捕まえて気を失わせて密かに注射し,それで開放したっていいわけです。で,財布とかクレジットカードを盗んでおけば「これは物取りの犯行でしょう」ということになり,ウイルスも無事にばらまけます。いずれにしても,子供を誘拐するのはリスク高過ぎますって。

 さらに,こんなウイルスをサミット会場でばらまいたら,その周辺にもどんどん加速度的に拡がり,「アメリカ全体が滅亡するんじゃない? そうなると,麻薬を買う人間だっていなくなるんでは?」と考えることですが,なぜかベッソン先生だけ気がついていません。

 ま,それはさておき,子供の誘拐を企てるんだけど,フランクの活躍で未遂に終わるんだったかな。


 一方,マフィアボスは剣道の防具を被って剣道の練習中。それなりに格好いいシーンですが,なぜ剣道の練習をしていたのかは意味不明。おまけに,その後のストーリー展開でも剣道は全く関係なし。

 練習が終わるとボスは上半身裸になり,彼の情婦にして殺し屋のお姉ちゃんがパンチーとブラ姿になって踊ります。ここで第2のスポンサーであるiPodを聞きながら踊っているんだよ,とiPodがばっちり映ります。ベッソン先生,スポンサーを大事にしています。ちなみにこのお姉ちゃん,両手にサブマシンガン(?)をもって殺しまくるのが好きですが,いつもランジェリー姿で,この格好で街の中を歩いたりします。露出狂と思われます。


 ここで悪者さんたちは,少年が何かの検診のために病院を受診することを知り,先回りして病院の受付の女性と主治医を殺し,「今日は○○先生は急用ができちゃって不在です」と騙して,隙を見て少年にウイルス注射をするという極めて大雑把な計画を実行。

 病院の受付に誰も見たことがない姉ちゃんが立っていたら,それだけで警備員がすっ飛んでくるはずだと思うんだけど,彼らの大雑把さを上回る管理の杜撰な病院なので計画は順調に進みます。しかし,あまりに杜撰な計画のため,フランクがちゃんと見破ります。ちなみにこのシーンでは,殺し屋姉ちゃんのマシンガンの弾を,フランクが木製ドアを盾に防ぐ,というどう考えてもそりゃあ無理だろ,というお笑いシーンが楽しめます。

 で,少年を助けたフランクはとりあえずスポンサー提供のアウディで少年の自宅に戻るんだけど,常識ある社会人としてはまず警察に駆け込むべきだろう,というツッコミを誰しもしたくなるところです。子供が襲われて銃撃戦になったんだから。でもベッソン先生は気にしません。あっ,そういえばこの前のシーンで,悪者たちがアウディに遠隔操作の爆弾をシャーシにくっつけたんだったな。


 で,フランクは少年と自宅に戻るんだけど,ここで悪者君たちが待ち伏せしていて,殺し屋姉ちゃんも登場して,「子供を殺されたくなければ殺し屋姉ちゃんを乗せ,命令する場所まで運転しろ」と言われます。どうしようもないんで姉ちゃんを乗せます。アウディの後ろにはウジャウジャとパトカーが追いかけて来るんだけど,そこはさすがフランク,超絶的運転テクでパトカーを次々と振り切っていきます。パトカーは盛大にぶっ壊れますが,アウディ様には傷一つ付きません。

 そしてフランクは立体駐車場の中に入り,後ろからはパトカーが追いかけてきます。どんどん上に登ります。それじゃ駄目じゃん,逃げられないじゃん,と思ったところで,なんと,アウディは宙を飛び,隣の建設途中のビル(なぜか壁がまだできてない)に突っ込み,無事に停車します。この,「何じゃ,そりゃあ!」感がベッソン映画の醍醐味です。

 とは言っても,アウディは出来かけのビルの中にいるわけですよ。立体駐車場じゃないしエレベーターもないんだから,下に降りる道はできかけの階段しかないはずです。ここで誰しもこのアウディをどうやって地上に降ろすんだろうと心配になります。フランクと殺し屋姉ちゃんが担いで階段を降ろしたんだろうかと思っていると,なんとベッソン先生,降りるシーンをばっさりカット! すっ飛ばしちゃいます。「考え付かないことは描かない」という解決を考え付くとは,さすがはフランス映画の巨匠ベッソンです。


 で,フランクの大活躍の甲斐あってというか,活躍の甲斐なくというか,結局フランクと少年は姉ちゃんに連れられてボスのところに到着,哀れ少年はどこかに連れていかれます。常識的には途中で車を止めてパトカーに包囲されるんじゃないでしょうか。殺し屋姉ちゃんはフランクを殺すかもしれないけど,少年を殺すという選択枝はないわけで(だって,殺しちゃったら計画もクソもない),少なくとも少年は安全じゃないかと言う気が・・・。

 こういう場合,映画の後半でフランクが八面六臂の活躍をして少年を助けるのが筋ってもんですが,そういうシーンはありません・・・というか,このあと少年とフランクが顔を合わせるシーンがなかったような気がします。多分,ベッソン先生,撮り忘れたものと思われます。


 で,フランクは開放されるんだけど,アウディのシャーシにはまだ爆弾がくっついています。走り出すアウディ,ボスはスイッチに手をかけます。フランクは絶体絶命です。さぁ,ここでどうするでしょうか?







 すると,またもやアウディは空を飛んじゃうのだよ。クレーン車を見つけ宙を飛び,空中で1回転半くらいして,クレーン車のフックに爆弾をひっかけてはずしちゃうのですよ。ベッソン先生,このシーンが撮りたくてこの映画を作ったんだな,きっと。


 忘れていたけど,今回の舞台はアメリカのマイアミです。それで,フランス時代のフランクの友人(どうも,第1作目でちょっと間抜けな捜査をする警部さんだと思うんだけど・・・)がフランスから訪ねてきて,フランクの家を訪問するんだけど,ここで事件を捜査している警察に逮捕されるというエピソードがあったな。このオッサンは警部だと身分を明かしたことで,それ以後,マイアミ警察署内を自由に歩き回れることになる,という設定になるんだったな。


 で,悪役ボスは少年の両親に電話をかけ,500万ドルを要求。何とか父親が金を集め,ボスに指定されたロールスロイスのトランクに金を投げ込みます。でも,待てど暮らせど悪者さんたちは金を取りに来ません。というか,最後まで取りに来ません。この500万ドル,一体どうなったんでしょうか。ベッソン先生,忘れちゃったものと思われます。

 で,ここでiPod様大活躍シーンになります。フランクは最初に襲われた病院に何か手がかりがあるはずだと忍び込み,防犯カメラに写っているいかにも怪しそうな男の画像をiPod様にコピーし,アウディのコンピュータにiPodを接続して警察署内のフランス人警部に電話をかけ,「今から犯人と思われる画像を送るから,身元を教えてくれ」と頼みます。

 防犯カメラとiPodをどうやって繋いだの,とか,防犯カメラの映像をどうやってコピーしたのとか,どうやって警察のコンピュータに画像を送ったのとか,アウディのコンピュータにUSB端子がついていたのとか,そもそもマイアミ警察のコンピュータにどうやってフランス人警部がアクセスできるのとか,考えれば考えるほどわからなくなってきます。とにかくベッソン先生,iPodを登場させることで頭が一杯で,他の事は考える余裕がなかったのかもしれません。


 で,iPodのおかげで,その男がロシアの科学者だということが判明(なんですが,どう見てもこの男は悪人面で,マフィアにしか見えません),彼とフランクの間で銃撃戦になりますが,なんだかんだあって科学者は外に逃げ出し,走るバスに乗り移ります。一方のフランクは,水上スキーを乗っ取り,それでバスを追いかけます。さっさとバスから降りれば水上スキーのフランクを捲けるんじゃないの,と誰しも思いますが,なぜかロシア科学者はバスに乗り続けます。そして,またもやフランク君の水上スキーは宙を飛んでバスに追いつき,バスに乗り込みます。壊した水上スキー,フランク君はあとでちゃんと弁償しようね。

 で,緊迫感のないまったりしたシーンがあって,結局ロシア人科学者は走って逃げ,それをフランクも走って追いかけ,研究所に到着。で,解毒剤(と称する,いかにも体に悪そうな液体)が二人分しかなくって,それを科学者が窓から外に放り投げて,フランクが窓から飛び出して,落ちる薬瓶より速く地上に到達したりして,キャッチしたかと思うと向こうから車が走ってきて潰れそうになったりして,と,ま,いろいろありましたが,よく覚えてません。


 で,マフィア側からは「子供を解放する」と電話があり,どこで開放するかという連絡はなかったはずなんだけど,なぜかコンテナの中に子供が閉じ込められているのがわかります。すると,なぜか爆弾処理班みたいなのが出動して爆破処理用ロボットみたいなのがコンテナの扉を開けようとするんだけど,なぜかロボットが火を噴いてCPUが故障しちゃいます。
 すると,子供の母が「私が子供を助けるわ!」と走り出し,いきなりコンテナのドアを開けます。前のシーンからの流れで,ここで爆弾が爆発かと思うと,そういうのはなく,これが簡単に開けられます。あのロボットが火が噴くシーン,意味不明。

 そこで親子の感動の対面があるんだけど,ここでウイルスが両親にしっかりと感染しちゃいます。三人は自宅に戻るんだけど,まず最初に子供の具合が悪くなって病院に収容されて意識不明に!

 その時,一人分の解毒剤を持ったフランク登場! なんと,彼はそのやばそうな色の薬を注射器に吸って,子供の腕にいきなり注射! オイオイ,フランク,お前は医者か? っていうか,この病院には医者がいないのか? 第一,駆血帯してねえぞ。それじゃ,血管に入らないって。
 ところが,なぜかしっかりと血管の中に入って,子供は回復します。めでたし,めでたし。

でも,感染したことを知らない父親がサミットに出席してそこらで咳をしまくるもんだから,参加者が次々に倒れます。なんだか,潜伏期が滅茶苦茶なウイルスです。


 そこでフランクは悪者ボスの自宅を調べようとして,まだ警察署内にいるフランス人警部に連絡し,ボスの自宅住所を割り出し,いろいろあってアウディが使えないため,今度はタクシーを乗っ取ってボス宅に向かいます。

 もちろん,ボス側はそれを待ち構えていて(なぜフランクが来るのを知っているんだろう?),いきなりマシンガンを打ちまくってきます。防弾アウディでない普通のタクシーなんだから,フランクとタクシー運転手はハチの巣かと思うとなぜか車内には二人の姿がなく,おまけにボスの手下たちのマシンガンはすべて弾切れ状態に。そこで登場したフランク君がカンフーみたいな技を駆使して全員を倒しちゃう。悪者君たち,フランクが来ると判っているんなら,マシンガンの弾の予備くらい準備しとこうね。

 一方,ボスは最も安全に解毒剤を運ぶ手段を思いつきます。なんと,自分の体に注射して持ち運ぶんだと! もうこのあたりになると,突っ込むのも面倒になってきます・・・というか,ベッソン先生ご自身も面倒になったらしく,やたら投げやりな展開になります。


 でもって,殺し屋姉ちゃんとの最後の決戦があって,ボスがコロンビア行き個人ジェット機に乗ろうとするんだ。それをフランクが車で追いかけます。するとなぜか,離陸しようとするジェット機にフランクの車が追いついて,フランクは飛行機の前輪あたりに飛び乗ります。フランク君,どうやって車のアクセルを踏みながらジェット機に飛び乗れたんだろうか? そしてなぜか飛行機の中に入り込めます。一体どこから入ったんでしょうか? どうやら,ジェット機のドアは外から開けられる仕様と思われます。あるいは,機内の親切な人が開けて入れてくれたんでしょう。

 そして,機内でボスと最後の格闘があって,そのとばっちりを受けて操縦士が死んだりして,飛行機がきりもみ状態になったりして,ようやくボスを気絶させたと思ったら,ジェット機は機首から海に突っ込みます。ここでフランク,慣性の法則を無視して飛行機の後ろに吹っ飛びます。おまけに飛行機は機種から突っ込んだはずなのに尾翼側が真っ二つに折れています。ベッソン先生らしい名場面です。

 そして,沈む機体の中からボスを助け出して水中で救命胴衣を着せ,水中で紐を引っ張るとなぜか救命胴衣が空気で膨らみ,ボスとフランクは海上に浮かび上がり,めでたし,めでたし。救命胴衣って海中でも空気で膨らむんだね。勉強になりました。


 恐らく,細かく見ていけばもっと突っ込めるところがあったと思います。

 ベッソン映画って,最高!

(2007/01/30)

映画一覧へ

読書一覧へ

Top Page