《生体兵器 アトミック ジョーズ》 (2004年,アメリカ)


 世の中には《○○ジョーズ》というパニック系モンスター映画が腐るほどあるんですよ。ま,その9割は愚にもつかない駄作映画なんですが,時々,面白いのがあるもんでして,なぜか《○○ジョーズ》というタイトルを見つけては借りちゃうんですね。もちろん,「また一杯食われちゃったよ」というオチになるのが通例なんですが,暇つぶしだからいいのです。

 で,どういう映画かというと,政府関連というか軍も絡んでいる海洋研究所があって,ネイサン・コリンズとその妻のマーラはそこでホオジロザメに遺伝子操作をして,さらに脳みそにマイクロチップを埋め込んで,サメを自由に操るという研究をしているんですよ。当然というか,研究はまだうまくいってないんだけど,軍のレモラ将軍(アナクロ・ステロタイプで尊大な愛国者)が早く成果を見せろというんで,研究所の上司は焦り気味。軍はどうやら,ミサイル探知に引っかからないサメに爆弾を運ばせようと企んでいる模様です。

 ところが,何者かによってサメが逃げ出しちゃい,次々に人を襲い始めるわけですよ。コリンズ夫婦(ちなみに離婚の危機にある)は何とかサメの脳みそのチップを制御しようとするんだけど,そこでなぜかレモラ将軍がネイサンを逮捕しちゃったりするわけです。おまけにサメはなぜかスーツケース型の小型核兵器を咥えていたりするわけよ。さあ,コリンズ夫妻はサメを制御でき,核爆発を阻止できるでしょうか,おまけに夫婦の危機を乗り越えられるでしょうか,という盛り沢山な映画です。


 で,これほど緊迫感のないジョーズものはあの超駄作《ジュラシック・ジョーズ》以来です。何しろ,サメの泳ぐスピードが異様に遅くて遅くて,泳いでいる人の9割が助かっちゃうんですぜ。「普通なら,こいつはここで喰われるはずだよね」と思っていても,まず喰われません。

 たとえば,海岸でイチャイチャしているカップルがいて,「泳ごうよ」と男が言うと,女が「でも,水着を持ってないわ」っていうんだけど,男が「僕たち二人しかいないじゃないか」とか言ったりすると巨乳姉ちゃんがいきなりパンチーとブラ姿になって泳ぎだす,というのはこの手の映画の定番シーンですよね。こういう馬鹿っプルは必ず喰われるはずなんだけど,なぜかこの映画では喰われないんですよ。なぜって,サメ君の泳ぎが遅いから・・・。

 そして,サメの泳ぐ姿がぎこちないのが情けないです。泳ぐシーンはすべてCGですが,海中を泳ぐシーンはすべて同じ! 毎回,同じお姿が拝見できます。サメが水面から躍り上がるシーン(ジョーズ映画の見せ場の一つですよね)も少なくて,おまけにそのシーンで食われる人間が皆無です。


 それと,モンスター・パニック映画かと思うと,なぜかベタなコミカルシーンが沢山あったりして,しかもそのギャグがぜんぜん笑えないの。
 たとえば,マーラが結婚指輪ははずそうとするんだけどなかなか外れなくて,なぜかサメのプールの脇で指に石鹸をつけてはずすシーンがあるんだけど,ここでなんとマーラちゃん,落とした石鹸に滑って転倒し,サメプールに落っこちちゃう。オイオイ,これって19世紀の映画じゃないよね。まさか21世紀になってこんなギャグが見られるとは思わなかったな。

 あるいは銃を突きつけているレモラ将軍を捕まえるシーン。浮き輪を投げるとスッポリはまっちゃって動けなくなるんだ。サザエさんとかドラえもんならこういうシーンもありだろうけど・・・。

 ほかにも突っ込みどころが満載です。レモラ将軍がいったい何をしようとしているのかもよくわからないし,なぜサメたちを逃がしちゃうのかも意味不明。核爆弾をサメがなぜ咥えているのかも説明なし。おまけに,核爆弾が爆発したというのに,隣の部屋に逃げ込んだやつは助かっちゃうし,もう,何がなんだかわかりません。

 おまけに,コリンズ夫妻は会議の最中だというのによりを戻す話をしているわ,切羽詰った状況だというのに「君の一番好きなとこはね・・・」とか告白したり,とてもうざったいです。


 そうそう,ヒーローとヒロインに華がありません。とても地味なお二人が主人公です。こういう映画では,ヒーローはやたらと格好良くて体力もあり,ヒロインはすごい美人で巨乳,というのが相場なのに,そのいずれでもありません。じみーなオジサンとオバサンです。

 そういう二人の地味さを補って余りあるのが脇役です。研究所の上司は下肢短縮型の小人症の患者さんです。おまけに左の股関節症を患っているようです。レモラ将軍も濃ゆいです。常に葉巻をくわえるマッチョタイプで,ガチガチの海軍馬鹿というか熱狂的愛国者。しかも,こいつが登場するシーンでは必ずそれっぽい音楽が流れるんですよ。もう笑っちゃうしかありません。


 この映画を作った人たち,一体どういう映画にしたかったんでしょうか? それが最後まで謎でした。

(2006/12/29)

 

映画一覧へ

読書一覧へ

Top Page