『騙し絵 日本国憲法』(清水義範,集英社文庫)
どうも近頃,清水義範ばかり読んでいるが,面白いんだからしょうがない。そしてこれも読み応え十分だった。この本は基本的に日本国憲法のパスティーシュ,パロディーであり,その根本に肉薄した力作だと思う。

例えば冒頭,憲法全文を21通りの文体で書き直しちゃう。それも,長嶋茂雄,名古屋弁,実演販売,パソコンのマニュアル,西原理恵子(もちろん漫画付き),東海林さだお,落語の「子誉め」,「フェネガンズ・ウェイク」,薬の効能書き・・・など,縦横無尽,変幻自在の文体・思想模写をしちゃう。

これだけだってすごいのに,この後,憲法の条文をネタに短編小説が続くんだけど,これらがまたどれも深い内容と味わいを持っていて,独立した作品に仕上っている。後半の「寄席中継」と題された「いとし・こいし」の漫才風,古今亭志ん生風,マギー司郎風などのパロディーもすごいが(特に,漫才風のやつはそのまま台本として使えるんじゃないだろうか),その前の「憲法第九条」「基本的人権」を題材にした章は,この国の憲法の憲法の根本的問題点に,個々の人生を交錯させていて感動的な佳作に仕上っている。
パロディーを思いつくのは簡単だ。ちょっとした思い付きだったら誰にだってできる。しかし,それを完結した作品に仕上げるには,類まれな才能が必要だ。大抵は途中で,破綻してしまうのが関の山だろう。清水義範の作品を読んでいつも驚くのはその多様性だ。そして多様でありながら,どれもこれも完成度が高い。小手先のパロディー・思い付きに終わっている作品がほとんどない。やはり,とんでもない才能である。

(2003/03/17)

 

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