《恋はハッケヨイ!》 (2000年,イギリス/ドイツ)


 とある映画の感想サイトで「大して期待せずに見たけど面白かった」ということが書かれていたため,ちょっぴり期待してみましたが,わたし的には大はずれでした。せめてもっとお馬鹿に作ってくれればそれなりに評価できるんだけど,どうやら真面目に作っているんですよ。それでいて,内容がデタラメなんですよ。おまけにデタラメのくせに,大真面目に夫婦愛なんぞをうたいあげるもんだから余計に白けちゃうんですよね。

 どういう映画かというと,登場する女性の9割はおデブのお姉ちゃんとおばさんです。しかも,森三中みたいな中途半端なおデブちゃんではなくて,石塚君とかパパイヤさんとか安田大サーカスのHIRO君とか,確実に0.1トンはありそうなお姉さんだらけです。このお姉さんたちがお相撲をしちゃう映画です。


 主人公はおデブちゃんだけどちょっと可愛いデイジーちゃん。「君はもっと太っていいんだよ,可愛いんだから」といってくれる優しい旦那様がいます。でも旦那が失業しちゃったために食品工場に勤め始めます。これが物語の発端。

 ところがその工場,なぜかおデブお姉ちゃんの巣窟なの。デイジーちゃんが埋もれちゃって見えないほど,おデブちゃんだらけなんだ。どうもそこでは,ダイエット・クラブと偽って,実は秘密道場で相撲(女相撲ってやつね)の稽古をしているんだよ。そして選手を集めるために,おデブちゃんばかり集めているらしい。そしてデイジーちゃんも仲間に入っちゃうんだけど,ここで相撲の稽古をしているのは秘密にする,という鉄のルールがあるんだよ。デブがそんなことをしていると知れたら,世間の笑いものになる,というのがその理由。

 で,デイジーちゃんの旦那のケン君には二人の友達がいるんだけど,どっちもUFOとか宇宙人とかを信じているいます。で,ケン君はデイジーちゃんの乳首を動物の鼻に見立てて,オッパイに可愛い動物を描き,それを絵はがきにして売る,という真面目なんだかギャグなんだか判らない商売を始めたりします。このあたりの設定,あまりに突拍子なくて,見ている方が困りますが,とりあえず気にしないフリをしてみて上げましょう。どちらも後ほどの展開の伏線になっていますから・・・。


 毎日,相撲の稽古で帰りが遅くなるデイジーちゃんですが,理由をケン君に打ち明けられないもんだから,ケン君は「浮気か?」と疑ってしまって,彼女の後をつけて行き,湖の畔で相撲の稽古をしているところを見つけちゃうのです(これについては後述しますね)。その異様な姿(イギリスの湖の畔でマワシを付けて相撲をしているんだから当たり前だね)を見て,すっかり,宇宙人に乗っ取られたと思い込んじゃいます(何しろ,親友二人が宇宙人の存在を信じ込んでいるからしょうがない)
 それで,相撲の稽古場に乗り込んで,「僕のデイジーを奪うな〜!」と稽古相手に飛びかかっちゃう。もちろん,張り手一発でノックダウン。病院に入院となり,そこでデイジーちゃんは真相を明かし,もう相撲なんてしない,と誓います。

 一方,女相撲を世に認めて欲しいと考える相撲のリーダー(食品工場の女社長だったかな?)が,彼女たちと日本人の男性力士(!)との試合を企画し,実現します。

 そして試合当日,デイジーちゃんはテレビでそれを見ています。もちろん,おデブお姉ちゃんたちは連戦連敗。もう最後,というところで駆けつけるのはもちろん我らがデイジーちゃん。そして土俵で四股を踏んで,蹲踞の姿勢をとり,相手を睨み付けるデイジーちゃん。さぁ,どうなるでしょうか・・・ってな映画だよ。


 このストーリーの要約を読んで,どんな映画だと思いますか? このストーリーで熱血系映画はないよな,と思いますよね。普通なら,ギャグ系にするはずです。ところがこの映画では,真面目に熱血系を目指しちゃうんですよ。ここに根本的な無理があります。

 まず何が駄目って,相撲のことを知らな過ぎます。そして多分,日本のこともほとんど判っていません。恐らく,理解:無理解の比率は2:8くらいと思われます。今年(2006年)のサッカー・ワールドカップの決勝戦の一部だけ見て「サッカーとは相手の胸に頭突きをして倒す」ものだと思いこんで,頭突きサッカー映画を作って公開するみたいなものですね。そのくらい,日本のことも相撲のことも知りません。日本人として,これは見ていてさすがに辛いです。

 これはちょうど,「日本の有名な料亭での食事」シーンで,ナイフとフォークで刺身を食べる様子が映し出されているようなものです。ギャグなら大笑いですが,真面目映画では「痛い」です。


 このため,相撲の稽古の場面といえば体をゆらゆら揺らして,一,二,三,四と足踏みをするだけ。しかも動きが超スローモー! これが相撲の稽古なんだって。オイオイ,そりゃあないだろう。おまけに,リーダーがハリセンみたいな巨大な扇子を広げたりします。昔の「メチャいけ」にこんなハリセンが登場するコントがありましたが,それを参考にしたんでしょうか。

 湖の畔に大きな防水シートみたいなのを敷いて,その上に丸い輪っか(土俵のつもりみたい)を置いて,そこでふざけあっているんだか,じゃれあっているんだかわからないことをしたりします。どうもこれが相撲の稽古らしいです。おまけによせばいいのに,「心技体」という言葉の意味を教えたりするのです。会席料理を手づかみで食べておいて,「会席料理は日本の心だ,わびさびだ」と説明しているようなものでしょうか。

 その挙げ句に,デイジーちゃんが湖に入ってなぜかオッパイポロリをすると,「これであなたも仲間よ」とか言われて,大喜びします。ちなみに,わざわざ見せてもらうほどの美乳でも巨乳でもありませんから,嬉しくありません。見せてもらわなくてもいいです。

 おまけにそのあと,みんなで着物を着て日傘を差して,湖の近くと思われる丘の上を走ったりします。こんなに派手な格好をしていて「私たちが相撲をしていることは秘密よ」なんだそうです。お前ら,その格好でイギリスを走りまくったら,目立ちすぎるんですけど・・・。


 そして,映画のクライマックスともいえる相撲の試合シーン。せめて,日本各地に残る女相撲と対戦させるならまだしも,日本の男性力士(とは言っても,髷は結っていないのでアマチュアなのかもしれませんが)と相撲だって!! そりゃあ,何が何でも無理ってものでしょう。だって,まともな相撲の練習をしていないんですぜ。まともに相撲すらしていないんですぜ。それで男性力士相手ですか?

 これは要するに,足し算がなんとかできるようになった小学生が東京大学を受験するようなものです。お米が研げるようになったばかり中学生が海原雄山に料理勝負を挑むようなものです。ようやく三輪車がこげるようになった幼稚園児が競輪の試合に出るようなものです。


 体型にコンプレックスを持っていたおデブ姉ちゃんが,相撲をやるようになって自分に自信が持てるようになった,という映画はいいと思います。その旦那が相撲の稽古を見て,「あのデブはエイリアンに乗っ取られたに違いない」と思うのもありです。日本人と対戦するのも許します。

 しかし全ては,相撲が強くなる過程をそれなりに納得いく形で示してくれた上で成立します。ましてこの映画は,シリアス路線を目指している映画なのですから,そこを手抜きしてはいけません。ここを手抜きすると,全体が嘘っぽくなり,安っぽくなります。この映画の監督には,そこらのことがまるで判っていません。駄作というのはこのようにして作られるんだな,というのがよくわかります。


 この映画を見て改めて,周防監督の《シコふんじゃった!》がいかに優れた相撲映画だったか,どれほど素晴らしい青春映画だったかがよくわかります。廃部寸前の大学の相撲部に,単位欲しさに入部させられたチャラチャラしたお兄ちゃんが,次第に相撲の面白さに目覚め,真剣に稽古を積むことで強くなり,そしてまわりの人間を巻き込み,ついに相撲部を復活させる映画です。

 この映画では稽古のシーンが手抜きなしで描かれていて,なぜ彼らが強くなったのかが自然に納得できますし,あそこまでやれば強くなるよな,と思います。だからこそ,最後のライバルとの白熱の試合に心が躍るのです。竹中直人演ずる「相撲オタクなんだけど,体が小さくて勝てない」先輩が唯一勝つシーンに感動するのです。主人公の細いけれどよく鍛えられたしなやかな肉体がこの映画を本物にしています。


 どんなスポーツを題材にしたギャグ映画であろうと,そのスポーツの場面だけは手抜きをしてはいけません。その映画の真実は,夫婦愛のシーンでも友情のシーンでもなく,唯一,スポーツの場面にあるからです。

 せめてこれが,デブと相撲を題材にしたギャグ映画だったら許せたのに・・・と思います。

(2006/08/09)

 

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