《ディープ・ショック》 (2003年,アメリカ)


 この映画は要するに,「深海物」での「知性のある未知の生物との接触」を描いたものです。この説明を聞いて,それって《アビス》のことじゃないの? と思ったあなた,その通りです。その通りなんですが,こっちの映画は《アビス》のパチもんです。哀しくなるほどチープなコピーです。

 《アビス》といえば,映像美と緻密な構成と,豊かなメッセージ性と独創性を兼ね備えた傑作だと思います(特に,オリジナル盤)。そして今回の《ディープ・ショック》には《アビス》のさまざまな場面のコピーが見られます。そのまんまコピーじゃん,というシーンまであります(例:未知の生物とヒロインが最初の接触をするシーン)。《アビス》のこのシーンは非常に美しいのですが,同じようなのに《ディープ》の方は笑っちゃいます。なぜかというと,未知生物の形が,水中で泳いでいる時と水中から顔を出すところで形が全然違っているんだもの。

 水中を泳ぐ姿は尻尾がうんと長くなったシイラというか,タチウオ,あるいは深海魚のリュウグウノツカイみたいな形で,いわゆる「首」はありません(魚類なんだから当たり前)。ところが,水中から顔を出すシーンでは,魚竜というかヘビみたいというか,しっかりと「首」があって頭をもたげています。確かに,動く姿の美しさを求めればリュウグウノツカイの方がいいけど,水中から頭を出させるのであれば,それでは困るわけです。このあたり,雑な作り方をしているのがよくわかります。


 ことの発端は,北極の温暖化です。国連の会議でヒロインの科学者は「これは地球温暖化とは無関係で,北極海の海底にある割れ目から出ている電磁波と関係があるはずだ」との自説を発表します。それに反対する学者(チョムスキー博士)は,その割れ目から発生する熱が原因なんだから,そこに核兵器を撃ち込んで塞いじゃえばいい,と主張。

 「これは地球温暖化とは無関係」と言い切るヒロインもヒロインなら,「核兵器をぶち込んで塞げばいい」という敵役も敵役です。この程度の説明で納得しちゃう国連会議ってのもすごいです。

 ちなみにこのヒロインは,割れ目から出ている電磁波がデンキウナギの出す電磁波に似ていると主張。何でも彼女によると,デンキウナギたちはそれで会話をしているんだとか。デンキウナギって頭がいいんだね。

 それにしても,敵役の科学者の名前を「チョムスキー」にするなんて,なんだかちょっぴり作為を感じちゃいますね。


 というわけで,海底から電磁波を出していたのが上述の魚竜というかリュウグウノツカイで,彼らは高い知能を持っているらしい。そして核兵器を無力化して,逆に攻撃してきた潜水艦とかに電磁波攻撃を仕掛けちゃう。そして,海底基地も全滅しちゃう。

 で,国連の何とか会議が,チョムスキーをリーダーとする調査隊を組んで南極に向かっちゃうんだけど,そこにヒロインと彼女の元夫も同行します。

 そこから先は,彼らの向かう飛行機が悪天候で墜落しそうになるわ,基地の中は死人だらけだわ,謎の生物が放電してくるわ,海底の割れ目からの電磁波を解読したら言葉だったわ,リュウグウノツカイと会話できるわ,まだ核兵器が発射されるわ,あと30秒しか残っていないわ,なんだかいろいろありましたが,何一つ記憶に残っていません。


 もしもこの映画を見ようという奇特な方がいらっしゃったら,この映画の前に《アビス》を見てはいけません。《アビス》を見ていなければ,暇つぶし程度の役には立つでしょう。

(2006/07/25)

 

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