《ドラゴン・ファイター 炎獣降臨》 (2002年,アメリカ)


 えーとですね,イギリスのどっかでの1,000年くらい前の地層から巨大な骨(恐竜の骨を思わせるくらい大きい)が見つかり,クローン技術で「人間が絶滅させた生物」を蘇らせる研究所でその骨から取り出したDNAから蘇らせて見たら,実はあの伝説の動物,ドラゴンだった,というモンスター・パニック映画です。

 ううむ,ドラゴンと来たか。ドラゴンが実在の生物と来たか。それはさすがにないだろ,と思っちゃいますね。だって,ドラゴンと恐竜じゃ全く違うもんね。ドラゴンなんていないもんね。《ジュラシックパーク》ならまだ何となくリアリティがあったけど,ドラゴンじゃ,全くのお伽噺でしょう?

 というわけで,ドラゴンと聞いただけで笑い出すような人間は近寄らない方がいいし,お伽噺だっていいじゃない,というタイプの人向けの映画なのかもしれません。


 そういうわけで,ドラゴンが蘇る研究所(核シェルターを改造して作られた物)に警備主任として派遣されたのが主人公で,軍人上がりなんだけどインテリです。そしてヒロインはこの研究所の女性研究員。その他の登場人物は6〜7人ほどと少ないです。研究所の所長(「科学の進歩のためには多少の犠牲はやむを得ない」が口癖の,この手の映画で必須の人物),もう一人の女性研究者,飲んだくれで弱虫の男性研究者,もう一人の研究者,前任の警備主任のマッチョ男,そして耳が不自由な調理師,あともう一人くらいいたかな? 研究施設は結構それっぽく作っていましたが,登場人物は資金不足のために極力減らした模様です。

 で,この研究所をドラゴンが食料(=人間)を求めて彷徨っているわけですから,脱出しなければドラゴンのお腹に入っちゃうわけです。しかし,研究所(地下20階くらいだったかな?)と外に通じているのはエレベーター1基のみ。ところが,その入り口のところにドラゴンが陣取っているわけですよ。どうやら,温血動物のドラゴンは火を吹くたびに体が熱くなるらしく,クーラーからの冷気を求めているらしい。

 そこで,主人公がエアコンを制御している部屋に行ってエアコンを調節したり,通気口のダクトを通って配電盤を修理したり,ドラゴンが襲ってきたり,犠牲者が次第に増えして,嫌なやつから順番に死んだり,でも一番嫌な奴は最後まで生き残っていたり,研究所の自爆装置が作動したり,あと30秒しか残っていなかったり・・・と,ま,いろいろ事件が起きます。よくある,時間稼ぎってやつですね。
 そして,何とかヘリコプターに3人(ヒーローとヒロイン,研究所所長)がたどり着いてヘリで飛ぶわけですよ。もちろん,ヘリをドラゴンが飛んで追ってくるわけですよ。そしてなぜかヒロインもヘリの操縦ができたりするわけですよ。


 ドラゴン,速いっすよ。ヘリコプターと同じスピードで追いかけてくるし,途中で参戦するジェット戦闘機だって火を吹いて落としちゃいます。飛行スピードも戦闘機と同等です。

 戦闘機はドラゴンにミサイルを撃とうとするんだけど,生き物なんでミサイルロックができません。さあ,そこで活躍するのが,映画冒頭から主人公がこぼしているヘリの燃料漏れなんですね。さあ,これでどうやってドラゴンを退治するか,勘がいい人ならお判りですね。はい,その通りです。


 というわけで,久しぶりにドラゴンの体を見ましたが,やはりこれは架空の生物だなぁ,と再確認。これは獣脚類と思われる恐竜の背中に翼が生えた物で,基本的にペガサス(馬の背中に翼が生えている)と同じです。ご存じのように,両生類も爬虫類も哺乳類も鳥類も4脚生物でして,翼は全て前脚が変化した物です(コウモリでは後脚も翼に参加しているため,歩くのに適さない脚になってしまい,ぶら下がることしかできなくなったった)
 もしも4脚の他にさらに背中に翼を生やそうと思ったら,その基本は6本脚の生物でなければいけないし,そのうちの2脚が翼に進化,4本が歩行に分化する以外に選択肢はありません。というわけで,4脚の恐竜がいくら頑張って進化しても翼は生えてこないんですね。

 また,映画に登場する中型獣脚類の体と,背中の翼のバランスが悪すぎます。この体の大きさを飛ばすためには翼が小さすぎます。飛ぶためには,もっと体をほっそりさせ,頭も小さくし,尻尾は短く細くしなければ飛べません。もちろん,人間を走って追ってこれるような後脚も重量オーバーの原因ですから,もっと細くしましょう。


 さらに考えると,火を噴くためには,消化管で可燃性ガスを産生する必要があります。可能性として考えられるのはメタンかエタンでしょうが,既存の細菌との共生を考えれば,メタン生成菌を胃袋に住まわせている,と考えるのが自然でしょう(・・・多分)。メタン生成菌が胃袋に共生していると仮定すると,今度は胃袋のサイズが問題になります。

 映画の中では何度も続けてドラゴンが火を吹いていますから,消化管の一部がメタン貯蔵庫になっていて,ここにメタンを蓄えているものと予想されます(でないと,一回火を吹くとしばらく火が吹けない)。またこのメタン貯蔵庫の入り口はいつもは閉じているはずですから(でないと,火を吹くと自分も燃えちゃう),絶対に逆流しない筋肉弁になっていて,必要なときだけ開く構造になっていなければいけません。
 問題はメタンを無圧縮状態で保存するか,圧縮状態で保存するかですが,無圧縮であれば巨大な貯蔵庫が必要になるし,圧縮貯蔵するなら頑丈な作りの貯蔵庫が必要になります。いずれにしても,大きな貯蔵庫にするか,頑丈な(=重い)貯蔵庫にするかの二者択一です。軽くて小さい貯蔵庫,という選択肢はありえません。これは「飛ぶ動物」としてはありえないことになります。

 メタンガスにどうやって火を付けるかがまた難しいですが,奥歯が火打ち石になっている,以外には思いつきません。火打石方式で許してもらいましょう。
 あとは5メートル先まで火を噴くだけの肺活量のある巨大な肺と強靱な横隔膜も必要ですね。

 となると,「火を吹く」ことと「空も飛べる」ことは,物理的に両立できないことに気が付きます。火を吹くなら巨大な体か重い体になるし,飛ぶためには軽くなければいけないからです。


 それにしても,たかがドラゴンについてここまで考察しちゃう私って,暇人にしか見えないんだろうなぁ。

(2006/07/10)

 

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