アリはなぜ,ちゃんと働くのか(デボラ・ゴードン 新潮OH!文庫)
アリはハチ同様,「社会的昆虫」と呼ばれるように,高度に組織化された社会を作って生活している。しかし考えてみればわかる通り,アリの集団には指揮官はいないし,司令塔役もいない(女王アリは命令役でも支配者でもなく,単に卵を産むだけが役割である)。そんな,「司令官不在の集団」がなぜ整然と秩序だって運営されているかを解明する研究が述べられているのがこの本。
この「アリ社会の運営方法」を解明しようとするなら,普通は飼育箱に巣を作らせて観察する「箱庭方式」を考えるところだが,デボラ女史が取った方法はもうトンデモナイものなのである。
まず一つの巣にいるアリの数を数えるために,巣穴を深さ2メートルまでいきなり掘りおこし,全てのアリを捕まえて数えちゃうのだ。本人も本の中で「コロニー内のアリの総数を数えることである。これは巣を掘り上げて全部のアリを見つけることであって,実に笑い事ではない」と書いているが,それを実行しちゃうのだ。そして彼女は,できてから5年を経過した巣穴には,12,000匹のアリがいるとさりげなく書くのだ。もう絨毯爆撃的というか,いかにもアメリカ的な発想である。

しかも彼女,共同研究者とともに,226個のコロニーを掘り起こしては数を数え,その平均値としてこの数字を出したのだ。とんでもない,パワフルお姉さんなのだ。
これだけだって十分すごいのに,この「アリ全数調査」作戦は彼女の絨毯爆撃的研究のほんの手始めに過ぎない。繁殖期になると羽を持って飛ぶアリの数を数えるために巣穴の上に巨大な「アリ捕獲器」を設置するのだが,その数なんと180個! そしてまた彼女はまたまたアリの数をせっせと数え始めるのだよ。

また,働きアリの行動範囲を調べるために,アリにマーキングしてその活動範囲を調べるとか,12ヘクタールの調査区域に6メートルごとに区切って旗を立てるとか,その研究方法は緻密にして丹念なのだ。とにかく,いい加減とか適当とか,そういう言葉が嫌いな研究者である。やるなら徹底的に水も漏らさぬ調査をする人である。

そういう膨大な研究を元にして,彼女はアリが相互に情報を交換し,巣全体として見事に運営するシステムを解明する。もう脱帽というしかない。

 

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