《ダイナソー・ファイター》 (1997年,アメリカ)


 人気ジャンル・カンフーに恐竜を登場させた痛快無比なSFアクション。サイボーグが支配する未来から現代のアメリカに逃げてきた男を抹殺するため狂暴な肉食恐竜が過去から送り込まれ、街はパニックに陥る。人類の未来を守ろうと、男は孤独な戦いを挑む。
 こういう宣伝文を読んだら,あなたはその映画,借りますか? 私は迷うことなく借りちゃいました。だって,カンフーと恐竜ですぜ。大山増達は空手で熊を殺したそうですが,カンフーで恐竜ですから,極真空手を凌ぐ迫力のはずですよ。しかも「孤独な闘い」です。はちゃめちゃなファイトが見られるかもしれません。そういう期待をわずかに秘めて,見たわけですよ。

 で,結果はどうだったかというと,出だしの5分を見ただけで,史上最悪のクズ映画の一つであることがわかりました。クズ映画って,最初の数分でわかっちゃうんですよね。80分ほどの映画なんですが,残りの75分が長いの何のって・・・! これに比べたら,《案山子男》の方がまだまともに見えます。

 とにかく,上記の宣伝文,嘘だらけ。まず,カンフーじゃないです。私は格闘技についてはあまり詳しくないけど,要するに普通のムエタイみたいです。登場するサイボーグも顔を白く塗っただけの普通の人間で,サイボーグらしいところは皆無です。そして,街もパニックになりません。


 一番驚くのが,恐竜のサイズ。遠くにいたときには見上げるような巨大恐竜(形から言えばティラノサウルスみたいです)なのに,近くに寄るほど小さくなり,人を襲うシーンではゴールデンリトリーバーくらいのサイズになり,殺してしまうと大きさは柴犬くらいです。実に斬新な遠近法です。

 恐竜の動きがギクシャクしていて可愛いです。油圧ポンプか何かで手足と口を動かしているだけです。1997年作成,というのは何かの間違いで,1950年代に作られた恐竜映画みたいです。

 多分この映画,予算がないからストーリーを考えずにまず最初にシーンだけ撮っておいて,その後にそれをつぎはぎしてストーリーをでっち上げたものと思われます。その証拠に同じシーンが何度も出てきます。地下道なんだか倉庫なんだかわからないセットの中を右往左往しているだけで,おまけに,冒頭のシーンをそのまま後半で繰り返して流す,という反則技さえ見せてくれます。


 途中も訳の分からないシーンが連続し(列車に乗るシーンって何だったの?),逃げる方もゆっくりしているし,追ってくる恐竜ものんびり動いているだけだし,全体にまったりとした「緩さ」があふれ出ています。これほど「緊迫感」という言葉から遠いパニック映画というのは久しぶりに見ました。

 そうそう,最初の方で「恐竜の弱点は首だ」といってナイフ一丁で恐竜に立ち向かい,見事に一太刀で恐竜が倒れるシーンがありました。恐竜君,弱過ぎ! だったら,ライフルで首を撃っちゃえば倒せるんじゃん。だって,ナイフで倒せるんだもの。

 おまけにすごいのは,最後の最後まで「主人公と恐竜がカンフーで闘う」シーンがなかったことです。冒頭の宣伝文,せめて一つくらいは本当のことを書いて欲しかったです。


 低予算クズ映画の常として,登場人物を可能な限り押さえています。特殊部隊突入,といっても一人しかいないし,その後追加される隊員も3人くらいです。ロサンゼルスが舞台のはずですが,画面に映し出されるのは,交差点にたまにしか車が通らないようなのどかな田舎町です。警察署の職員も3人くらいだし,FBI(?)職員はさらに少ないです。「巨大恐竜の大群が街を破壊」という割には,街はどこも破壊されていないし,出てくる恐竜は2匹くらいです。

 主人公を助けるヒロイン役はなぜか修道女です。なぜ修道女という設定にしたのか,最後まで不明です。おまけに,至る所で聖書の文句が引用されるので,うざったいです。しかもご丁寧に,子供が「ねえ,なんで漁師さんになるの?」と尋ねるシーンが二カ所ほどあり,そのたびに「海女さんでなく尼さんよ」という明治初期のようなギャグが挿入されます。これを聞かされるたびに怒りがこみ上げてきます。


 原題は "Future War",つまり「未来戦争」です。どこが未来でどこが戦争か意味不明です。

(2006/06/23)

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