《ファングス Rats》 (2001年,ドイツ)


 大量のネズミが画面を占拠する動物パニック映画。決してB級ではありません。むしろ,真面目なパニック映画です。予算もケチっていないし,交通事故が起こるシーンは本当に車同士がぶつかっているし,そこらの低予算パニック映画とは一線を画しています。また,事件の背景の説明,人物描写もきちんとされています。

 しかし,お行儀よく作られている分,破天荒な面白さというか,お馬鹿パワーに欠けることは事実です。小さくまとまってしまったな,という感じは否めません。
 ま,時間つぶしには最適な映画で,見て損した,というような映画ではありません。安心して(?)お勧めできる映画です。

 それと,場面転換がかなり凝っていて,とてもお洒落です。こう言うところは気合いを入れて作っているようです。


 舞台はドイツのフランクフルト。ここ2ヶ月,雨が降っていません。おまけに市長が経費削減の名目で,ゴミ収集を民間委託するという方針を打ち出し,その結果,市の支出は減らせたもののゴミ収集が滞り,街中ゴミ袋が積み重ねられています。この二つが重なり,ネズミが大発生したようです。

 ネズミが電気の配線を噛み切ったため,信号機が止まったり,地下鉄が動かなくなったりと街中大混乱。

 これだけでも大変なのに,ネズミが新型のウイルスを持っていて,それが人に感染するというおまけ付き。なにやら鳥インフルエンザを彷彿とさせます。この,人への感染の初期症状はインフルエンザそっくりのため,診察した医者はインフルエンザと思い込み,その後に激烈な症状(意識障害や多臓器不全)が発現した時には対策が後手に回る,というのも新型感染症が拡がりつつある場合には極めてあり得ることでしょう。

 また映画では,爆発的感染が起きて病院のベッドが足りず,医者は過労状態,死亡患者の剖検もできない,という状況もきちんと描かれていて結構リアルです。


 物語は二人の人物を中心に展開します。無茶ばかりしているために「ネズミ対策部署(?)」に左遷された元レスキュー隊員(男)と,救急室に配属されたばかりのシングルマザーの女性研修医。研修医といっても6歳くらいの子供がいますから,多分,20代後半と思われます。

 この二人を軸に,新型ウイルス感染症の治療に奔走する医者と,大量発生したネズミを駆除する「ネズミ対策チーム」の奮闘ぶりが交互に描かれます。新型ウイルス感染への対策として見ると,不自然なシーンはあまりありませんし(もちろん突っ込もうと思えば突っ込めるけど),この種の映画としては医学的な説明はかなりまともな方です。


 問題は,ネズミ退治の方法とか,ネズミの巣窟を見つけられた理由とか,高熱でフラフラ街をさまよっている先輩医師を見つけるシーンとか,ネズミの巣窟を爆破する主人公が逃げ出すシーンとか,そういうところが「出来過ぎだよね」と見えてしまうことです。「都合が良すぎるよなぁ」と感じてしまう部分が少なからずある点が,この映画の欠点です。
 特に,あれでネズミが一網打尽にできるというのは,絶対にあり得ないです。いくら,新型ウイルスを保有したために,ネズミが一カ所に集まるように習性が変わったとしても,あの爆破の瞬間にあらゆるネズミがそこに集まっているは,さすがに都合良すぎでしょう。


 というわけで,動物パニック系としてはちょっと迫力不足だけど,伝染病パニック系としてはそこそこきちんと作られている映画,というところでしょうか。

(2006/06/22)

 

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