《キラー・バグズ》


 題名から分かるように,昆虫パニック映画です。昆虫が人間様にパニックを起こす方法は大体限られていて,普通は次の3つになります。

  1. 大きさは普通だがとにかく数が多い。
  2. とにかくでかい。
  3. 毒を持つなど普通でない武器を持っている。

 この『キラーバグズ』は〔1+3〕のパターンです。とにかくやたらと数が多いし,しかも人間を乗っ取る(?)という能力も持っています。ただし弱点もあって○○に弱く,これに当たると消えてしまいます。それが何なのかは映画を見ているとすぐにばれちゃいますが,これくらいは謎にしておきましょう。後半でバグ退治(プログラマーの日常・・・じゃないって)の切り札がこの○○です。


 映画は大学時代の同級生の葬式のために,かつての親友たちが集まり,彼を偲ぶために一人が持っている別荘に集まることから始まります。旧交を温める,ってやつなんだけど,皆様,そろいもそろってヤッピー(懐かしい言葉だな)です。映画俳優,新聞記者,IT会社の社長,女性医師などだったかな。それで男性が5人くらい,女性が3人くらいなんだけど,それぞれ,学生時代にくっついたり離れたり,その後結婚したり,別れたりと,人間関係もそこそこ交錯しているわけですが,ま,このあたりはアメリカのドラマのお約束ですから気にする必要はありません。どうせ判ったところで,90分後にはほとんど死んでいるわけだし・・・。

 それにしても,こいつら,パーティーを開くこと,そこでパートナーを見つけてつがいを作ることしか頭にないんでしょうか。途中で,70年代のテクノポップ調の音楽をかけて踊るシーンがあるんだけど,思いっきりアホまるだしです。


 で,その山荘ではみんなでしゃべったり踊ったりしているんだけど,女性二人が「私たち,泳ぎたい」とかぬかして海辺に行っちゃう。もちろん,水着なんて持ってきていないわけで,お約束の「トップレス・シーン」。海から上がって体を拭き,バッグを探すんだけど,それが最初と違う場所にあることに気付く。そっと近づくと,羽音みたいな音がする。で,覗き込んでみると,バッグから出るわ出るわ,虫(ハエ)がウジャウジャ飛び出します。この小さなバッグのどこにこれだけ隠れていたんだ? あんたはミスター・マリックか,それともプリンセス天功か?
 このハエの大群が彼女の口の中にどんどん入り込んじゃう。そして,彼女を捜しに来た男(彼女に気はあるけどまだ告白していない純情青年)がいて,彼女にいきなり情熱的キスされ,その途端に口移しにハエが!

 普通なら,口の中に虫がウジャウジャ入り込むわけで,非常に気色悪いと言うか,そういう状況は絶対に避けたいわけですが,この映画を見ているとそういうおぞましさはちっとも伝わってきません。煙が口に入るみたいで,たいしたことなさそう。このあたりがこの映画の駄目なところですね。


 で,この二人が別荘に戻ってきて,いきなり他の人を襲いだすんだよ。ものすごい馬鹿力で暴れちゃう。しょうがないから首を絞めて止めようとすると,首の骨が折れているのにまた起き上がる。腹を刺しても,首を切っても,首が取れてもこっちにくるんだ。体の動きがぎこちないのがちょっと救いだけど・・・。で,その取れた首からまたハエの大群が吹き出してくる。

 残った連中が別荘に立てこもるんだけど,一人,また一人とハエに乗っ取られちゃう。こういう密室で一人ひとり変身していくホラー映画は他にもあるけど,やはり怖いなぁ。誰が見方で敵かわからない怖さです。

 で,女性が一人残されたところで,彼女の前に,冒頭で死んだはずの男が登場。人間は独りよがりで地球を破壊している,だからこの虫が地球を乗っ取り,地球を元に戻すのだ,とかなんとか言い出すわけです。ま,よくあるとってつけたような理由付けだな。そして彼のもとに全ての「ハエ乗っ取られ人間」たちが集まり,絶体絶命となったところで何とか脱出。ハエ君たちも全滅!
 これで終われば,めでたし,めでたし,なんだけど,さらにワンシーン続きます。ここは怖いです。救いようがない結末となっています。


 さて,お約束の「ツッコミ」です。

 まず,そもそもこのハエがなになのか,最後までよく判りません。生物兵器として開発されたのが逃げたわけでもないし,自然のハエが突然変異したわけでもなさそうです。最初に死んだ男が「出会った」と表現しているんだけど,それで説明おしまい。オイオイ,これでいいの? おじさん,怒っちゃうぞ。

 それと,おとりになってつかまりそうになった仲間に,ポルノ業で一儲けした奴が薬を渡すんだけど,あれは何なんだろう。というか,何のために渡したんだろう。何の効果を期待して渡したんだろう。私は,この薬を飲んだら感染しなくなるとかの効果が偶然あり,それが後半の反撃への伏線になるのかと思っていたら,全然無関係。それなら,さももっともらしく渡すなよ。

 あと,映像的に一番いけないのが,口からハエが飛び出す(吐き出される?)シーンの安っぽさ。いってみればこのシーンは,この映画のおぞましさの象徴になるはずだったのでしょうが,前述のようにかなり安っぽいため,怖くありません。
 ま,それはともかくとして,口から黒い煙みたい莫大な数のハエが竜巻みたいに飛び出ます。ところが,そういう「群」として登場するハエの数と,人にたかるハエ(これは一匹一匹のハエ)の数にギャップありすぎ。個体としてのハエを映すのが面倒なのは判るけど,ちょっと手を抜き過ぎだよ。

 それと,ハエは口から飛び込むから口を閉じていれば大丈夫,という設定で映画が作られているけど,あれだけの数のハエなんだから,口が駄目なら鼻の穴から入るんじゃないだろうか。私がハエならそうするぞ。

 そういえば,最期の方で別荘に火を付けるシーンがあって,窓という窓がぶっ飛びます。その前にガソリン(?)を部屋にまいているんだけど,それだけであの爆発は起こるんでしょうか。


 さらにいえば,最期まで生き残る女の子の身体能力と状況判断能力,高すぎ! どんな場面(例:「ハエ乗っ取られ人間」に殺された人間のポケットを探っていたら,いきなり死んだはずの人間の手が掴みかかるとか)に遭遇しても,的確に判断,的確に反撃します。パニックに陥ることがなく,生き残る手段を最期まであきらめません。「あずみ」と「ゴルゴ13」が合体したようなものです。

 君,こんなすばらしい才能があるんだから,この映画に出てくるような軽薄でチンケな男どもとくっついたりしてないで,もっと上を目指しなさい。君の身体能力,判断能力,戦闘能力が泣くぞ。

(2006/01/25)

 

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