48歳男性。茨城県在住。
 2012年2月28日,自宅の火災に巻き込まれて広範囲熱傷。直ちに〇〇メディカルセンター病院に搬送され,その後,▼▼病院皮膚科に転院し,数回の植皮術が行われた。
 6月に退院し,月一度の通院でいいと皮膚科主治医に説明されてゲーベンクリームが処方されたが,まだ傷が残っていて,しかもリハビリテーションを希望してもリハビリはしなくていいと説明を受けたため,説明に不信感を持ち,ネットで調べて当科を受診した。
 初診時,前胸部と前腕などに熱傷潰瘍が認められ,両肩は挙上できなかった。最も辛いのは採皮部(背部,大腿,下腿)の乾燥と掻痒感であった。
 当科では家庭でできるリハビリの方法を指導し,ワセリン塗布で乾燥を防ぐように指導。熱傷潰瘍はプラスモイスト貼付で治療。

2012年6月26日:網状植皮されている 右前腕:
移植皮膚は
生着しなかった
左前腕:
移植皮膚は生着
背部 網目がくっきり 下腿採皮部:
とにかく痒い!
2013年6月5日
右前腕:
瘢痕は目立たない
2013年6月5日
左前腕:
網目の醜形が目立つ
2013年6月5日
1年たっても網目は改善しない


 以前にも書いたように,網状植皮のウロコ状の醜形は25年たっても改善しない。形成外科医や皮膚科医が「皮膚移植すればきれいに治る」と言ったら,そいつは嘘つき,ペテン師,詐欺師である。

 また,2013年6月5日の左右前腕を見比べて欲しい。左は植皮術がうまくいって皮膚が生着した側,右は植皮がうまくいかず,軟膏ガーゼで自然に治した側だ。手術から1年以上経過し,右は瘢痕が目立たず動きも滑らかだが,左側はウロコ状の硬い移植皮膚が覆っているため動きが悪い。更に,右は知覚は正常だが,左は知覚鈍麻があるため,傷ができてもわからない。
 患者さんは「こんなことなら,左腕も手術を失敗して欲しかった。というか,全身の皮膚移植を失敗して欲しかった。そうしたら,今頃は動きも正常で仕事にも復帰できていたはず」と怒り心頭である。


 それから1年後の写真である。なんと,1年前までは両側前腋窩線の瘢痕拘縮のために肩より上に挙げられなかった両腕が,完全に挙上できるようになった。もちろん,瘢痕拘縮形成術などの手術は行っていない。
 この間,患者さんは「両腕さえ上がれば仕事に復帰できる」との一念で,毎日,ぶら下がるなどの腕を上げる運動を行い,そのうち,自然に両腕が上がるようになったとのことである。診察してみると,瘢痕の硬さなどの瘢痕拘縮の症状と程度は1年前と全く変化ないが,瘢痕の下の組織の可動域が大きくなることで瘢痕拘縮を代償して動いているようである。

 前腋窩線の瘢痕拘縮については手術(Z形成術)しか治療法がないと信じてきたが,それももしかしたら「旧世代の常識」になるのかもしれない。

2014年4月1日

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/398/index.htm】

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