46歳女。
6月18日,夫の作業(解体業)を手伝っていて,右足で古い釘を踏んだ。直ちに〇〇病院を受診し,破傷風トキソイドを投与され抗生剤が処方された。翌日も受診したが右足の腫脹がひどく,10日間,抗生剤の点滴を受けた。その後もずっと抗生剤の内服を続けていたが,7月22日に高熱を出して入院となり,連日点滴を受け,8月2日に退院した。入院中にMRI検査を受け「骨に近いところに炎症がある」と説明された。痛みで歩けないため,ネットで調べて当科を受診した。
 右踵にかすかに瘢痕がある程度で,炎症症状はなかった。整形外科でも診てもらったが,レントゲン上,異常はないとの事だった。
 ペインクリニックを受診するようにアドバイスした。

8月19日 刺創部


 このような「古い釘を踏んだ」という症例が受診したら,破傷風トキソイドと抗生剤投与を行うのが常識だし,その意味では上記の〇〇病院の治療は間違っていないと思う。問題があるのは「翌日受診した際,右足がひどく腫れ上がっていた」にもかかわらず,抗生剤投与しかしていない点だ。私なら,局所麻酔をして刺創部を探り,膿瘍形成をしていないか確かめ,膿瘍形成があってもなくてもナイロン糸ドレナージする。「刺創による創感染」という因果関係が明白であれば,真っ先に疑うのは膿瘍形成だと思う。ドレナージをせずに漫然と抗生剤を投与しても,完治までに時間がかかるだけだ。

 そして,あまり奏功しない治療を受けて痛みが続いていると,やがて人間は「痛みの記憶」を長く保持するようになるようだ。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/1013/index.htm】

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