77歳男。神奈川県在住。
 2月18日夕方,湯たんぽの熱湯がこぼれて右大腿に熱傷受傷。自宅近くの〇〇内科クリニックに通院していたが,治らないため,3月8日に△△皮膚科医院を受診。手術が必要と言われ◇◇大学病院形成外科に紹介状を書いてもらい,3月9日に受診。「ベッドが一つだけ空いているから明日入院し,翌日手術しましょう」と説明された。帰宅後,息子さんが手術しない治療がないかとネットで調べ,3月10日に当科受診。
 右大腿内側全体に及ぶ20×15センチの3度熱傷と思われる熱傷創面を認めた。「穴あきポリ袋+紙おむつ」(勝手に鳥谷部先生のサイトにリンク)で治療。安静にせず,よく歩くように指導。壊死組織が創面を覆っていたが,自然に融解するのを待ち,デブリードマンは行わなかった。
 上皮化完了(患者さんによると10月初め)までに6ヶ月以上を要して瘢痕治癒したが,瘢痕は非常に柔軟で運動障害,瘢痕拘縮は認められない。患者さんも普通に歩いている。また,全経過を通じて創感染は一度も起きていない。

3月10日 3月17日 3月24日
  7日後 14日後

3月31日 4月15日 5月8日
21日後 36日後 59日後

5月29日 7月8日 8月5日
80日後 121日後 148日後

9月2日 11月27日 とても柔軟
176日後 262日後  


 「広い面積の3度熱傷でも植皮なしに治っちゃうよ」シリーズの一例です。

 安静にせずに動かしながら治すと,完治までに時間はかかりますが,よく動く瘢痕の状態で治癒します。安静を保って治すと,完治は早いですが,動かない瘢痕で治り,運動障害を生じます。

 初診時の写真を見ると,全て3度熱傷のように見えますが,受傷から2ヶ月半後の3月31日に幾つもの「皮膚の島(=残っていた毛孔からの上皮化)」が出現し,それが次第に拡大し,周辺部と癒合することで全て上皮化していることがわかります。つまりこの熱傷は3度熱傷でなく2度熱傷です。
 熱傷の教科書には「2週間で上皮化しないものは3度熱傷なので,皮膚移植すべき」と書かれていますが,完全に間違っていることがわかります。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/1000/index.htm】

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