19歳女。福島県在住。
 10年前に骨肉腫と診断され,都内の〇〇大学病院整形外科で人工関節置換術を受けた。2008年9月,身長が伸びたため,同科で再置換術を受けたが,手術時に縫合できない部分があり,創離開の状態で手術終了となり,軟膏での治療が行われ(軟膏の種類は不明),その後創は治ったようだ。2010年11月,創部が赤く腫れて膿が出て人工関節露出。その後,骨髄炎が起きていると言われ,入院して灌流治療を受け,感染症状が落ち着いたところで同院形成外科に紹介されたが,形成外科では人工関節を除去しない限り傷は治らないと診断された。しかし,整形外科では技術的に人工関節の除去は極めて困難と言われ,大腿近位部で切断するしか治療法がないと言われた。また,切断した場合,大腿はほとんど残らず,義足装着も難しいと説明されている。
 毎日泣いている患者を見て,両親が必死になって骨髄炎の治療などについて検索してこの症例を発見し,人工関節除去も大腿切断もしない治療が可能かもしれないとのことで,当科を受診した。当科では患者に次のように説明した。

  1. この症例以外にも金属プレートが露出したままで1年以上経過観察した症例は数例いるが,どの症例でも創感染も骨髄炎も起きていない。
  2. これまで,整形外科で「慢性骨髄炎」と診断された患者を数十人治療しているが,本当に骨髄炎だった患者は一人もいなかった。どれも「なんちゃって骨髄炎」だった。
  3. しかもこれらの患者さんは,普通に入浴し,普通に日常生活を送っている。ということは,あなたも普通に生活できるはずだ。
  4. 金属が露出している状態とは良好なドレナージが得られている状態であり,この状態(=プレート露出状態)が維持できれば今後も感染は起きないだろう。つまり,「傷が治らない」状態が最も安全である。
  5. 金属が常に見えているのは気持ちが悪いかもしれないが,この人工関節はあなたを骨肉腫から救ってくれた恩人であり,病気とともに戦った戦友だ。戦友と一緒に暮らす人生ってちょっと格好いいぜ。
  6. 創部の被覆は「穴あきポリ袋+紙おむつ」(勝手に鳥谷部先生のサイトにリンク)でいいだろう。
  7. あなたの足の皮膚の状態から考えて,今後,傷が治ることはないので,感染が起こる危険性は極めて少ないと思うが,発熱などの異常があったらすぐに来て欲しい。私が何とかする。
  8. とりあえず抗生物質を処方しておくが,これは「お守り」みたいなもので,発熱があった場合に解熱剤のように飲んで欲しい。1~2回,内服すれば熱は下がるはずだ。
  9. あなたはまだ若いので実感がないと思うが,あなたよりあなたのご両親が先に死ぬのはほぼ間違いない事実だ。だから,いずれ親が死ぬ日が来ると考え,その時までに一人で生きていく手段を考えていい時期だと思う。
 
 1か月後に再診してもらったが,「治療方針がわかって安心した。前回の診察の後,ビジュアル系バンドのライブに生まれて初めて行ったけど,とても楽しかった。いろいろな資格をとるための勉強も始めた。毎日が楽しい」と話されていた。初診時は暗くて硬い表情だったが,再診時は表情が明るく笑顔が絶えなかった。キラキラと輝く19歳の表情が素敵だった。

2014年6月13日 7月15日 11月7日 2015年4月24日(315日後)

10月30日(504日後) 2016年10月21日
861日後
2017年5月19日
1071日後
11月10日
1246日後

2018年5月25日
1442日後
11月9日
1610日後
2019年5月24日
1806日後
11月15日
1981日後

2020年6月12日
2191日後
12月4日
2366日後
2020年12月,運転免許を取得。これでどこにも一人で行けますよ,と笑顔。

2021年5月21日
2534日後
12月3日
2730日後
2022年6月3日
2912日後
9月27日
3028日後

12月2日
3094日後
2023年5月26日
3269日後
12月1日
3458日後
10年経過しました


 多分,〇〇大学病院整形外科の先生たちは「プレートが露出していて何か起きたらどうするのか」と考え,「何か起きる前に大腿切断すれば何も起きない」と考えたと推察する。これは「目玉を摘出しておけば白内障にならない」,「胃を切除しておけば胃癌にならない」,「脳を切除しておけば脳腫瘍にならない」という発想である。

 私は非難されるのを覚悟で,「何か起きたら,その時に対策を考えればいい」と考える。未来に起こることは予測できないが,そのほとんどは過去の経験の範囲内であり,過去の経験から得られた知識で対処可能だからだ。過去に経験したことがないことに直面することもあるだろうが,その時だって過去の経験と知識から対処法は演繹できるはずだ。そのために脳味噌があるのだ。

 なお、2022年に〇〇大学整形外科では主治医が退職して若い医師に変わり、過去8年間の経過写真を見て「本当に何も起こらないんですね。このまま様子を見ましょう。手術はいつでもできますから」と態度が変化したとのこと。

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