31歳女性。
7月22日,バイクから降りるときにマフラーで右下腿後面にヤケドした。直ちに当院ERを受診。翌日,当科を受診した。
当科初診時,水疱膜は創面に固着し水疱液がない状態だったため,水疱膜は除去せずにプラスモイスト(R)で被覆するのみとした。3日後,水疱膜が自然に浮いてきたためこれを除去した。
7月23日 | 7月26日 | 鑷子で摘んで除去 |
7月26日 | 8月2日 |
「熱傷水疱膜は除去」が大原則だが,除去のターゲットは水疱膜ではなく水疱液である。感染源となるのは水疱液であって,水疱膜自体は感染源ではないからだ。
だから,この症例のように「水疱液がほとんどない水疱膜」は無理に除去する必要はない。
ここにも書いたが,水疱液は細胞成長因子(=創傷治癒を促進するサイトカイン)であるが,細菌の側から見れば単なる「蛋白質が豊富な水」である。だから,水疱膜の一部が破れてそこから細菌が侵入すると,水疱液は細菌の絶好の培地になり,細菌が増殖して感染が起こることになる。
一方,細菌の側からすると,安定して増殖するためには「蛋白質を含んだ水」は流れずに静止していたほうがいい。流れる川の水が腐敗することはないが,澱んだドブの水が腐敗するのはこのためだ。
水疱膜に包まれた水疱液に「流れ」はない澱んだ状態だ。だから,細菌は安心して増殖できる。もしも,細菌に増えてもらいたくなかったら,この「細菌増殖の場(=澱んだ浸出液)」を除去するしかない。だから,水疱膜を除去するわけだ。
この症例のように「水疱液がほとんどない水疱」では細菌の増殖の場(=水疱液)はない。だから,除去しなくていい。