50歳女。
 2013年1月,右第1趾の爪周囲炎があり,横浜市内の〇〇医院を受診。陥入爪と言われ,爪の先端を切除。治らないため,レントゲン撮影し,骨に穴がありそれが感染の原因と言われ,爪に穴を開けて膿(?)を出してもらった(具体的にどういう治療をしたかは不明。その後の創処置についても怖くて見られなかったので,どういう治療をされたかよくわからない)。一時,痛みがなくなったが8月に再発。抗生剤内服で一時治まったがその後また再発。2015年6月に△△病院整形外科を受診し,骨髄炎と言われ,通院治療を受けたがたびたび感染を繰り返したようで,根治のためには指切断が必要と言われた。その説明にびっくりして,ネットで調べて当科を受診。
 2015年9月11日,当科を受診。
 爪甲全体が厚く白っぽくなっていて,中央が線状に陥没。爪根部中央も瘢痕で陥没。前医の治療は不明だが,爪根部正中が瘢痕治癒しているため,ここが骨嚢腫(?)に通じていたのだろうと推察。排膿後の処置は不明だが,消毒薬などの組織障害性のある薬剤での処置が行われて,その結果として骨表面(骨皮質)と爪母正中が瘢痕化し,爪母正中のみ爪甲が作られなくなって爪甲中央が陥没変形した,と考えられた。また,瘢痕化しているため血流が悪く,瘢痕部分で感染を繰り返すようになったと想像された。
 この時点で頭に浮かんだ治療方法は次の通り。

  1. DIP関節で切断断端形成(⇒最も確実に感染再発は防げるが,患者は希望せず)
  2. 抜爪して爪母と骨皮質の瘢痕を切除(⇒瘢痕化した部分の骨皮質のみを確実に除去するのは実際にはかなり難しそう)
  3. 抜爪して爪母の瘢痕を除去し,湿潤治療で肉芽が上がってくることを期待(⇒技術的には容易だが,骨皮質の瘢痕は残るので感染が再発する可能性が高い)
  4. 抜爪後に爪母を全て切除し,爪が生えてこないようにする(⇒技術的には容易だが,骨皮質の瘢痕は残るので感染が再発する可能性あり)
 以上を患者さんに説明し,c案を希望された。9月28日,手術(抜爪+爪母の瘢痕切除,可及的に骨表面を鋭匙で掻爬)し,ヘモスタパッドで被覆。翌日からはプラスモイストで被覆。
 術後の経過は良好で,3週間ほどで創傷は上皮化し,爪甲もゆっくり伸びてきた。この間,痛みはなく,普通に歩けるようになった。また,感染も起きていない。年末までは順調に経過。
 2016年1月5日,「爪が伸びた頃からまた痛みが出てきた」と受診。抗生剤と鎮痛剤で経過観察となった。
 5月に再受診。何度か爪根部に膿がたまり,自壊を繰り返したとのこと。診察時,爪根部正中に皮内膿瘍を認め,排膿処置を行った。「もう一度,抜爪して欲しい」との希望もあったが,爪が伸びる頃になると皮内膿瘍を再発することは目に見えているので,それはしないほうがいいと説明。
 恐らく,抜爪して爪根部の皮膚を大きく反転して爪床も観音開きに大きく開き,小さな骨ノミで瘢痕化していると思われる骨皮質を丹念に切除するか,あるいは切断断端形成しか治療法はないと思われた。前者の場合,骨皮質の切除部分が伸筋腱付着部に近ければ,技術的にはかなり難しいことになりそうだ。
 ただし,感染を起こしても皮内膿瘍だけなら自壊してそれ以上進展・悪化する可能性は低いため,現状で経過観察という選択肢もありかなと思われた。現在,経過観察中。

9月28日   9月29日 10月6日

10月13日
15日後
10月28日
30日後
11月11日
44日後
12月7日
70日後

2016年1月5日
99日後
1月20日
114日後
5月26日
241日後


【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/〇〇/index.htm】

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください