この足背熱傷に植皮は必要でしょうか?


 症例は1歳女児。11月11日にポットのお湯で左下腿,左足背に熱傷を受傷。某病院の形成外科で治療を受けていたが,主治医より「足背は植皮手術をしないと治らない。植皮をしないと歩行障害を起こして歩けなくなる」と説明を受けた。
 両親はこの説明に納得できず,インターネットで湿潤治療のことを知り,11月25日,当科を受診した。

 初診時,下腿と足背はゲーベンクリームを厚く塗ったガーゼで覆われていた。

11月25日の状態


 アンケートです。この症例に植皮は必要でしょうか?・・・アンケート結果











12月5日 12月12日 12月19日 12月26日


2月3日 4月7日

 というわけで,1ヶ月で上皮化し,それから3ヶ月間経過観察していますが,軽度の肥厚性瘢痕は生じていますが瘢痕拘縮はなく,普通に歩行しています。


 形成外科の専門医(=熱傷専門医)が「植皮しないと治らない,植皮しないと歩行障害を起こす」という説明は一体何なのか,という気がします。熱傷専門医の「これは植皮が必要」という判断は湿潤治療の前では全く通用しなくなります。

 また,アンケートに「素人でもラップで治せる」という回答がありましたが,これはまさに「熱傷専門医が植皮でなければ治せない」熱傷を「湿潤治療を知っている素人が治せる」ことを意味しています。要するに,熱傷専門医が素人以下になっているわけです。

 パラダイムシフトとは何か。それは旧パラダイムの専門家の知識が通用しなくなる変化です。旧パラダイムの専門家の知識は素人にすら否定される時代になることです。そうなっても,古い専門知識にしがみつくのが「専門家」です。過去に実際に起きたパラダイムシフトの様子を研究すると,そういう現象が繰り返されてきたことがよくわかります。

 また,熱傷深度(2度熱傷か3度熱傷か),治療法の選択,熱傷の治り方,患部の安静,熱傷瘢痕,瘢痕拘縮など,熱傷に関するこれまでのあらゆる概念が通用しなくなることが判ります。逆に言えば,これまでの熱傷治療のスペシャリストと,新時代の熱傷治療においては,共通する概念がないため討論すら成立しないことを意味します。

 そして,熱傷は素人でも治せる外傷になります。つまり,擦りむき傷と同じ程度の外傷に過ぎなくなります。その時,何が起こるでしょうか。
 熱傷専門医という肩書きが意味を持たなくなります。熱傷専門医は擦過創専門医,急性上気道炎専門医と同じ価値しかなくなります。当然,専門医を名乗る意味もなくなります。素人でも治せるのに専門医は要らないからです。

 そうなったとき,熱傷学会が存続できるでしょうか。多分,難しいでしょう。現時点で医者は二つに分かれています。

 熱傷学会に参加しているのは前者の医者です。後者の医者は,熱傷学会の存在すら知らず,風邪を治すように熱傷を治しています。そしてやがて,「熱傷学会の存在は知らないが,熱傷治療を日常的にしている医者」が増えてきます。そして増えてくるのは,熱傷治療を特別視しない医者です。もちろん,熱傷学会に所属するのは「熱傷治療を特別視する医者,熱傷治療は特別な知識がないとできないと思っている医者」です。

(2009/04/17)

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