《バッド・サンタ》 (2003年,アメリカ)


 「面白かった,感動した」という評判なんで見てみたが,正直言って私の感覚と微妙にずれているところが多すぎて,褒めるほどのものかなぁ,という感じだった。

 確かに素敵なシーンはあったし,先が読めない展開の面白さはあったし,中年ダメ男の心象風景なんてのも身につまされるところがあったし,少年との心の交流もちょっぴりあるし,いろいろと盛りだくさんなんだけど,基本的なところで作りが雑というか,いい加減というか,そういうところが気になり出すと,とたんに全体が安っぽく見えてしまった。

 それと,クリスマスが舞台になっているとはいっても,やたらとエッチシーンが出てくるため子供には見せられない映画だし,一方,一番最後のいじめられっこが反撃するシーン(この映画で唯一スカッとするシーン)は子供に見せたい部分だし・・・となると,この映画は一体誰に見て欲しくて作ったんだろう,という疑問が生じる。このあたりの「ボタンの掛け違い」感は最後まで解消されなかった。


 ま,とりあえず,ストーリー紹介。

 大酒飲みで女にだらしないろくでなし中年のウィーリーと,その相棒の軟骨形成不全症(小人症)のマーカスってのがいて,この二人はクリスマスシーズンになると「サンタクロース(ウィーリー)と妖精(マーカス)」に扮装して,子供たちのお願いを聞き入れるというアトラクション(みたいなの)を仕事にしている。

 しかし二人の本業は金庫破りと泥棒さん。閉店する間際にマーカスが店内に隠れて残り,クリスマスのために誰もいなくなった頃を見計らって内側から鍵を開けてウィーリーを招き入れ,金庫(もちろん,クリスマスの売り上げで札束がぎっしり)を破るのが目的なんだな。

 で,今年もそのつもりで,とあるデパートでサンタと妖精として働き始めたんだけど,なぜか一人のデブ少年がウィーリーのことを本物のサンタクロースと思い込んでまとわりついて来るんだ。最初は「うざいやつ」と思っていたんだけど,ひょんな事から少年の家に居候することになり・・・ってな感じの映画である。


 このストーリーなら,作りようによっては感動的な作品にもなったはずなんだけど,この映画の監督は「確かに感動的なんだけどちょっと変な映画」にしちゃうんだよ。狙ってそうしたのか,狙いがはずれてそうなったのか,微妙なところだけど・・・。

 何が変かというか,やたらと下品なギャグを入れちゃう。例えば,サンタをやりながらオシッコを漏らすシーンとか,明らかにゲイと思われる男がいきなり理由もなしに襲ってくるシーンとかそうだ。「さあ,オシッコだぞ。面白いだろ,笑えるだろう」と監督は思っているかもしれないけど,全然笑えないのである。以前,おならを連発させる超クダラナイB級映画を見て,何じゃこりゃ,全然笑えねぇ,と思ったけど,それと同じ感覚である。文化の違いってやつかなぁ?


 そして不自然な部分が多すぎ。

 まず,おデブ少年は父親がある事情で家にいなくて,祖母と二人暮らしという設定だが,その家がプール付きの豪邸(少なくとも日本の感覚では)なのだ。おまけにそのおばあちゃんがややぼけていらっしゃる(今風に言えば認知症ぎみ)。となると,働き手がいないのにどうやって生活費を得ているのかが不自然だし,どうやってこの豪邸を維持しているのかも気になってくる。これなら,初心者の泥棒君でも簡単に盗みに入れるはずである。

 それとウィーリーは泥酔状態でサンタの役をしていて座り小便までしちゃうくらいグデングデンなんだから,この状態で子供がそばに寄ったら「お酒くさ~い,このサンタさん,変!」と騒ぐはずなんだけど,そういう様子もない。子供たち,みんな鼻が詰まっていたのか?

 それと,この「サンタさんにお願いを伝える」イベントで子供たちが列を作って並んでいるんだけど,なんでこの程度のイベントに子供が集まるんだろうか。サンタなら何でもいいのか。お前ら,おかしいぞ。


 ここで,「訳の分からないアメリカ映画を見たら,天使を疑え」という鉄則があるんで,そういう見方をしてみると,まさにあのおデブ少年は「純真でちょっとオツムが弱そうで・・・」という天使の条件にぴったりだ。体型もおデブちゃんでエンジェル体型だし・・・。

 となると,彼のおばあちゃんと二人暮らしの家は天使の家と言うことになって神様に守られた安全,ということになるし,泥棒に入られないのも当たり前。生活費もかからないわけだな。その家で暮らし始めたウィーリーの心境の変化もそれなりに説明できるし,ウィーリーがその家に連れ込んでエッチするお姉ちゃんが,子供のお世話をする「いいお姉ちゃんキャラ」に変化していくのも天使の力,ってことになりそうだ。

 でも天使だとすると,最後の「いじめっ子への反撃」手段がちょっと天使らしくないな。困ったなぁ。ううむ,この「天使説」はいい線いっていると思うんだけど,最後のシーンが難点だな。


 一つ褒めるとしたら,音楽の絶妙な使い方で,特にクラシック音楽の選曲のセンスは抜群である。特に,金庫を開けて泥棒するシーンで使われる『トロヴァトーレ』の「アンビル・コーラス(っていう曲だっけ?)」は画像と見事にマッチしていた。ここは文句なしに素晴らしい。

(2007/02/08)

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