《デッドマン ソルジャーズ》 (2006年,アメリカ)


 アルバトロスの面目躍如たるクズ映画。何でこういう映画を作ろうと思ったのか,この程度の脚本で映画を撮っちゃったのか,その勇気というか蛮勇というか無謀さに感動すら覚えます。これで60分の映画だったら「クズ映画だったけど,60分と短かったので我慢できた」と褒めるところですが,このただでさえ薄い内容を90分に延ばしちゃうのですから,その内容の薄さは推して知るべし。出がらしの紅茶の上澄みだけ掬ったみたいな薄さです。ですから,途中から,我慢大会をしているんだか映画鑑賞をしているんだか分からなくなってきます。


 一応,次のような文章で宣伝しております。

1944年、第二次世界大戦中のドイツをを舞台に、ヒトラーの人体実験によって生み出された不死の兵士と連合国兵士の死闘を描く恐怖の戦争アクション! ヒトラーが製造したという恐るべき兵器を調査するため、フランスに潜入したシュミット大尉はそこで怪物のような兵士を目撃する。

 DVDのジャケットも格好いいですよ。

ヒトラーの顔を背景に,死神のような顔をしたナチの兵士軍団が押し寄せてくる様子が描かれています。レンタルDVD屋さんの棚でこのジャケットを見て解説文を読んだら「こりゃ,面白そうじゃん」と思っちゃいますよね。


でも,それこそアルバトロスの思うつぼです。全部嘘ですから・・・。ゾンビみたいなドイツ兵は出てきますが一人か二人です。旗を持って押し寄せるシーンは皆無です。しかも「連合軍兵士との死闘」も目を覆わんばかりののどかさです。これほど情けない戦闘シーンを見たのは久しぶりです。よくこんな映画を2006年に作ったもんだよ。


 どういう映画かというと,ドイツ占領地のフランスに潜入したアメリカ軍兵士が,銃弾が当たっても死なないゾンビみたいなドイツ軍兵士に遭遇する,っていう素敵なお話さ。この不死身ドイツ兵の正体は,秘密裏にドイツが人体改造薬かなんかで変身した姿なんですね。これを兵士に飲ませると「銃弾が当たっても通さず,力も強くなって,恐怖心もない」という状態になるんだって。そういう不死身兵士と闘う羽目になったアメリカ兵たちは生き残れるのか,そして,この悪魔の計画を打ち破ることができるのか,っていうナイスなストーリーです。

 この手の荒唐無稽な話は嫌いじゃないし,作り方によっては,「すごくバカバカしいけど面白い映画」になるはずですが,面白い映画になる絶対条件は,いかに金をかけたかにあります。「低予算だけど面白い映画」はサスペンスとかホラーではあり得るけど,低予算で面白い戦争映画というのは絶対にありません。戦争映画はたとえパロディーだとしても,金をケチってはいけません。肝心の戦闘シーンがチマチマしちゃうからです。この映画はそういう基本的なところで間違っているんですよ。超低予算戦争ホラー映画なんて作っちゃ駄目なのに・・・。


 低予算の悲哀は目を覆いたくなるほどです。まず,アメリカ兵の数が最初は4人の部隊,後半は7人くらいだったかな。あとは司令官みたいなのが一人と,ぶらぶらしているのが数人。これでアメリカ側がすべて。ドイツ側も研究所(というか壊れかけた工場)の中に5人くらいいて,ゾンビ化したのがドイツ兵が2人。こいつらは別々に登場しますが,これは多分,同じ人が二役で人件費を浮かしたものでしょう。あとは博士が一人と,二人のフランス人女性と狼男が一人というか一匹。これでオールキャストです。だから戦闘シーンが迫力もくそもありません。どの戦闘シーンも戦争ごっこをしているみたいにしか見えません。

 おまけにドイツ側のメカ関係では,張りぼての装甲車みたいなのが一台と「リアカーに大砲を載せました」みたいなのが一台登場するだけです。それを至近距離で撃ってきますが,あまり当たりません。アメリカ側は手榴弾を相手に投げますが,爆発しても可愛い噴煙が上がるだけです。なんだか微笑ましくなります。

 さらに,この田園劇風の戦争シーンをさらにのどかにしているのが,行軍のシーンで聞こえてくる野鳥のさえずりです。これが実によく聞こえるため,アメリカ軍の皆さんがピクニックかバードウォッチングをしているように見えてきます。

 しかも,この「緊迫感ゼロ」の雰囲気をさらに沈静化させるのが,延々と続く哲学的会話です。これがうざいです。中学生同士の哲学論争よりレベルの低い会話が心を寒くしてくれます。無駄な時間稼ぎは止めて欲しいものです。


 そして,なぜ登場するのか意味不明の狼男さん。何の説明もなしにいきなり登場し,なぜ狼男になったのか,そもそもこいつは狼男なのか,全く説明なし・・・というか,なぜここで狼男が絡んでくるのか意味不明。この狼男君が後半にゾンビ兵士退治に絡んでくるんですよ。「変身していない俺だから安全なんだぜ,変身した俺に近づくんじゃねぇ!」とか,大見得を切ったりしているんだから,大活躍するかと思いますよ。ゾンビ兵士たちをちぎっては投げ,ちぎっては投げ,ってね。ところが,せっかく期待したのに,この狼男君,弱いの何のって,ゾンビ兵士と格闘したと思ったらすぐにやられちゃいます。

 この狼男君,何のために登場したかというと,多分,時間稼ぎのためです。「ナチスのゾンビ兵士 vs アメリカ兵」だと60分で終わっちゃうから,90分映画にするために無理矢理,狼男のエピソードを加えたんじゃないでしょうか。

 ちなみに,映画の前半はゾンビ不死身兵士はちょっぴり登場するだけで,狼男君がらみのシーンばかり続くため,「これって狼男の映画なの?」と思ってしまうはずです。

 あっ,そういえば,最後のシーンのゾンビ君と狼男君が格闘するシーン,どう見ても真っ昼間なんですが,狼男って満月でないと変身しないお約束があったような気が・・・。ま,このあたりを突っ込むと,この映画,きりがないです。

 他にも沢山,ツッコミを入れたいところがあったけど,もういいです。みんな貧乏が悪いんです。

(2007/01/04)

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