《SAW ソウ》★★★(2004年,アメリカ)


 「低予算,短時間に作ったとは思えない面白さ」ってな評価が多く,細部にいろいろな仕掛けがいてあるのでそれらを事細かに読み解くファンがいたりして,カルト的・熱狂的に持ち上げられるたりしている映画であるが,一方で,「全然面白くなかった,後味が悪すぎ」と否定的な感想も多い。要するに,賛否両論である。

 で,私の感想だが,これは駄目映画だと思う。ホラーとしては十分過ぎるほど怖いし,残虐シーンは見ているだけでも痛いし,謎解き映画として見ても最後の最後に明かされる真犯人はびっくり仰天だし,その点ではよく作られた映画だと思う。誰が最後に生き残るのか,犯人の本当の狙いは何なのかと,エンドロールが流れるまで一瞬も目を離せない。

 しかし,基礎的設定が弱すぎるというか,根本のところでボタンの掛け違いがあって,そこのところが感興をそいでしまう。


 映画の初めの部分はとても衝撃的だ。外科医ゴードンは目が覚めると真っ暗な部屋にいて,足は鎖で繋がれていた。明かりがつくと古い広いバスルームで,部屋の対角線にもう一人の男アダムがいて,どうやら彼も足を繋がれてる。そして二人のちょうど真ん中には頭を銃で撃ち浮いた男の死体が転がっていて,血の海となっている。しかも,二人のポケットにはカセットテープが入っていて,午後6時までにもう片方を殺さなければお前の命はないというメッセージが録音されていたのだ。なぜ自分がそんな目に合わされなければいけないのか,なぜ自分が殺されなければいけないのか,部屋の向こう側にいる男はそもそも誰なのか,それすら知らされないのだ。ムチャクチャ怖い,設定である。

 そして,過去の事件が細切れで明かされ,次第に事件の様子が見えてくる。どうやら犯人は以前にも数人,残虐な方法で殺人を犯している男らしい。しかも犯人の一味らしいのがゴードン宅に侵入して妻と幼い娘を人質に取っている。ゴードンとアダム,そしてゴードンの家族に助かる道はあるのか・・・という映画だ。

 密室という限られた空間で,おまけに時間は刻一刻と過ぎていくし,鎖を切る方法はないし,逃げるためにはノコギリで自分の足を切るしか方法がないし(タイトルの "SAW" はここから来ているらしい),家族は殺されそうだし,犯人がどこで見張っているかも判らないし,というわけで,最後まで緊張感を持続させるのは見事である。そういう意味では,よくできた脚本だと思う。


 では,何が駄目かというと,この連続殺人犯が「なぜこいつを犠牲者に選んだのか,なぜこの人が犠牲者に選ばれたのか」がまったく判らないこと。犯人が犠牲者を監禁するのはどうも「人生を無駄にしているやつが許せない。病気で死んじゃう人間もいるんだぞ!」という思想的(?)背景があるらしいことが次第に明らかになる。要するに,「せっかく生きているのに無駄な生き方をしている奴はいねがぁ~!」というナマハゲ的行動らしいんだけど,ゴードン先生が選ばれる必然性はゼロだし,ましてカメラマンのアダムなんて選ばれるほどの悪人じゃない。少なくともゴードン先生もアダムも「6時までに相手を殺せ」と強制されるほどの悪人ではないのである。

 これは他の犠牲者も同じ。確かに善人じゃないけど,この程度の悪事だったら可愛いもんでしょ? ほかにもっと悪い奴はいるし,あの程度で「お前は人生を無駄に・・・」と言われたってなぁ。それと,ゴードンの家族を監禁する男がそれに及ぶ理由というか動機付けもすごく希薄で説明不足。

 途中で,犯人の考えというか動機が明かされるのだが,そんな理由で連続殺人するかよ,その程度の理由で,あんなに仰々しい装置を作るのかよと,うざったく感じされて,白けてくる。そんな,とってつけたような理由で納得しろといわれてもなぁ。


 それと,最後の最後に明かされる張本人も,後で思い返すと「そういえばあのシーンでチラッと映っていたな」というのは覚えていけど,その後は一度も出てこないわけで,あれはちょっと反則だよ。絶対に膝蓋部と足背に褥瘡できてるって・・・医学的には・・・。

 それと,ゴードン先生たちの以前の犠牲者たちの殺され方がすごく凝っているのは画像的には美味しいけど,ちょっと冷静になると,あの仕掛けを作る手間はどうなんだろうとか,かなり凝ったつくりにしては鍵がちゃち過ぎるよねとか,全然納得できないことばかりである。仕掛けが仰々しい割には,していることがチャチ過ぎるのである。費用対効果,悪すぎ!

 あっ,そういえば,ゴードンが自分の足を自分で切断して携帯電話を必死で取りにいくシーンも,あの位置だったら手に持ったノコギリを使えば携帯電話を取れたよね。チンパンジーでもノコギリ使って携帯電話をとると思うよ。ゴードン先生,必死なのはわかるけど頭悪すぎ!

 あと,ジャンキー姉ちゃんが麻酔で動けなくなっている男の腹部を切り裂いて胃袋から鍵を取り出すシーンも絶対に無理。画像的にはグロくて美味しいけど,解剖の知識がある医療関係者ならいざしらず,ど素人が腹部を切っても何がなんだかわからないだろうし,運よく腹膜下に到達できたとしてもどれが胃袋かなんて絶対にわからないはずだ。まして,あの小さなナイフで,しかも犠牲者はかなり体格のいい男性で脂肪も厚そうだ。あれで解剖できたとすると,腹部外科に慣れた専門家としか考えられない。


 この映画はいくらでも深読みできるため,あーでもない,こーでもない,と一つ一つのシーンや会話を詳細に分析している解説があって,それはそれで見事なんだけど,そこまで分析するほどの映画ではないような気がするし,それほどの内容ではないと思う。分析するのは勝手だけど,それは時間の無駄だと思う。

 少なくとも,私はもう一度見たいとは思わないし,次々作られている続編も見ようとは思わない。

(2006/12/24)

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