《クリムゾン・リバー》 (フランス)


 これも,なんだかよくわからん映画だったなあ。舞台となるアルプスはきれいだし,ミステリアスな雰囲気とちょっとグロいシーンはそれなりにいい味を出しているし,主演のジャン・レノはいつもながらだし,アクションシーンもあるし,暇つぶしにはいい映画だと思いますよ。
 だけど,謎解きとしてストーリーを反芻しだすと,とたんに訳が分からなくなるのです。その原因は,原作をあまりにはしょりすぎ,説明不足なためのようです。映画の原作となる小説はきちんと書かれた素晴らしいスリラー小説ということですから,「本来2時間映画に縮めることが無茶だった」ために変な映画になっちゃったということでしょうか。


 ストーリーを要約すると,アルプスのどっかで若い男性の死体が見つかるんだけど,ひどい拷問を受けて,目玉をくり抜かれているんですね。近くにある大学の職員だということが判明します。で,異常犯罪というわけでジャン・レノ扮するニーマンス警部(という名前だったかな?)が派遣されるわけね。

 で,その村(だったかな?)では同時に墓荒らし事件が起こります。10年前くらいに死んだ女の子の墓が荒らされ,ナチのハーケンクロイツがなぐり書きされいるのが見つかります。こっちの方はどうでもいい事件なんで,地元の若手刑事が担当。この子どもは交通事故で死んだんだけど,それを確かめるために彼女が通っていた小学校に行ってみると,なぜか彼女の写真と在学記録だけが盗まれているのね。

 で,墓荒らし現場にいつもたむろしている不良どもの話から,その大学に在職している職員(だったかな?)が絡んでいるらしいと判り,彼の部屋を訪ねたところで,上記のニーマンス警部と鉢合わせになります。ニーマンスの捜査線上にこの職員が上がっていたことから,この二つの事件は実は繋がっていたことが判り,やがて第2,第3の殺人事件が絡み,さらに,その大学で代々行われていたナチス・ドイツの恐るべき実験が明らかになる,というお話です。


 ううむ,ここまでまとめるだけでちょっと大変だったな。話としては単純なんだけど,登場人物の行動が短絡的だったり,突発的だったりして,展開もご都合主義だったりするため,後で思い返すとゴチャゴチャした印象しかないんですね。それと,事件の真相とも言うべきヒロインの双子の姉妹が最後の最後に突然登場しますが,それまで全く伏線がないために誰だこりゃ,という感じです。最後の3分間でそれまで登場していない真犯人をいきなり出して,そいつに全責任を負わせちゃって一件落着? それをやっちゃ,駄目でしょう。これは禁断の一手だよ。

 要するに,原作の小説(かなり複雑なストーリー展開らしいです)を適当にまとめてしまったため,「訳が判らない感」ばかり強くなったんじゃないでしょうか。


 この大学では,優良人種を作るために優秀な研究者同士を結婚させて子供を作らせる,という実験(?)を行っています。しかし当然の事ながら,血族結婚が続くために先天異常が増え,それを解消するために,村人がこの大学病院で出産した際,優秀な村人の子供とすり替えていた,というのがこの事件全体の背景です。
 でも,先天異常が発生しはじめた時点でこの計画が失敗だということに誰も気が付かないと言うのは,明らかに不自然。というか,医者なら血族結婚で遺伝性疾患が増えることは常識なんだから,どっかの時点で,「やはり近親結婚が続くと駄目なんですね」と誰か指摘しろよ,という感が否めません。
 というわけで,この映画(小説)全体の真相があまりにもチャチで無理ありすぎ! 新生児を盗んですりかえるほどの実験じゃないです。


 それと,見つかった死体は激しい拷問の後があり,目玉をえぐられていたわけですが,これは誰が何のために拷問したのかもこの映画だけでは全く判らないし,拷問をする必然性も不明。

 映画の中では,ニーマンス警部は「犯人は死体で我々を導いているのだ」と言い,目玉をえぐった眼窩に溜まっていた水の組成から,次の死体を見つける,という設定になっていますが,これはあまりにも無茶。目玉をえぐったのはいいとしても,そこに水が溜まっていたのもいいとしても,さまざまな体液と混ざってしまうため,ヒロインが氷河の水を採取して「これと同じ成分よ」というのはムチャクチャでしょう。

 あっ,そういえば,死体が「胎児の姿勢」を取っていたのもなぜなんでしょうか。見つかった2体ともに同じ形で凍っていて,その姿勢であることが映画中で強調されますが,なぜそういう姿勢で凍っていたのかという理由も最後まで明かされません。オイオイ,誰か説明してくれよ。


 あと,若手刑事が墓荒らし事件の捜査のために,地元のチンピラたちに質問するシーンでは,彼らの一人に「クソ野郎」と言われただけで激高し,殴り合いになりますが,この刑事君,あまりにも短気すぎますよね。こういう警官に尋問されたくないです。その後も気が治まらないのか,店の中で椅子を放り投げたりして店の中を破壊します。オイオイ,そこまでいったら犯罪だろ? ・・・というか,このシーン,必要ないじゃん。

 それと2体目の死体を発見する場面もすごく不自然。これは「目玉くり抜き穴」に溜まった水を調べるために,ニーマンスが山岳ガイド(?)の女性(ヒロイン)と一緒に広大な氷河の中の一つのクレバスに入り込み,そこで上述の「同じ水よ」というシーンになるのですが,当然,調査のためだったらそれでお終いですからクレバスから出ればいいのに,なぜかニーマンスはクレバスの底に降りていき,そこで氷河の中の洞窟(というのかな?)を見つけます。ガイド女性は「奥に入っちゃ駄目! 水が噴き出してくることがあるわよ」と注意するのですが,ニーマンスは構わず奥に進みます。ま,この手の映画ではお約束のシーンですね。そして,なぜかそこで第二の死体を発見するのです。

 あれだけ広大な氷河の中で,たまたま降りていったクレバスの底に繋がる洞窟で偶然,第2の死体ですか? となると,このガイド女性が死体の在処を知っていて,そこにニーマンスを誘い込み,死体を見つけさせたとしか考えられませんが,そうなると,その直前の「奥に入っちゃ駄目」と制止する意味が分からなくなります。


 どう贔屓目に見てもムチャクチャ不自然映画なのですが,どうやらこの映画惚れ込んだ脚本家がいて,同じジャン・レノ主演で《クリムゾン・リバー2》を作っています。その脚本家がかのリュック・ベッソンです。不自然な設定とご都合主義の展開の映画を作らせたら世界一という迷惑人間です。おまけに,《2》の方は《1》に比べものにならないほどの不自然なストーリー展開が楽しめるとのことです。これは見ずばなるまい!

(2006/09/11)

 

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