《ブラック・ビートル》 (2001年,アメリカ)


 大量のゴキブリがウジャウジャ登場する昆虫パニック映画です。ごく大雑把にストーリーをまとめると,陸軍の特殊部隊に所属している主人公が,弟の不審な事故死に納得できず,この事件を追う警察の女刑事(ヒロイン)と協力していろいろ調べているうちに,昆虫を生物兵器として使おうとする軍だったか政府の陰謀に巻き込まれる,というどこかで見たことがあるような内容です。

 とはいっても,私がよくみる類の低予算B級パニック映画とは一線を画しています。例えば,バス運転手が一匹の殺人ゴキブリ君(サイズは普通)に食いつかれてパニックを起こし,街中の道路を暴走していろんな物を壊して最後は横転する冒頭シーンは,CGなしの実写で,車も建物も壊しまくっています。同様に,最後の建物爆破シーンもちょっとやり過ぎというくらいに派手です。金をかけるところではきちんと金をかけているようです。

 また,そこらの低予算昆虫パニック映画と同じに扱わないでね,という感じで,グロいシーンは全くないし,ホラー映画というよりはむしろミステリー映画路線を目指していて,話は謎を小出しにしていく形で進み,次第に巨大な(?)全体像が見えてくるという構成を取っています。ま,いわゆる本格派指向,ってやつですね。


 で,それが成功しているかというと,ちょっと微妙なところがあります。単純なパニック映画じゃないからね,とばかりにいろいろな要素(大量昆虫パニック,巨大昆虫パニック,軍の陰謀,敵と味方の交錯,カルト教団,暗号ファイルの解読,ヒーローとヒロインの愛,性格の悪いヒロインの同僚・・・)をゴチャゴチャに詰め込んだため,全てにおいて中途半端になっちゃった感があります。こんなに欲張らなかったら,ストーリーの展開もわかりやすく,スピーディーな引き締まった映画になったと思いますね。


 この映画で一番駄目なのは,「昆虫を電磁波で操作して自由に操って生物兵器として使う」というこの映画の中心テーマが十分に説明されていない点でしょう。映画を見ている限り,使われているゴキブリは普通のゴキブリのようですから,そこらにウジャウジャいるゴキブリたちを「電磁波」で操作して一カ所に集め,凶暴な性格に変え人を襲わせる,としか考えられません。

 となると問題は,どうやってそこらにいるゴキブリ君たちに電磁波を届けるか,というところにあります。ゴキブリ君たちは通常,食器棚の裏側とか冷蔵庫の裏側とかにいるわけですから,こいつら全てに電磁波を届けようとすれば,波長の長い電磁波(電波)ということになります。ところが,都会にはこの波長の電磁波はそこらに氾濫しているのです。つまりこの方式の「ゴキブリ操作法」は不可能です。

 映画の中では「変死体の手足に感電死で見られるような線状の火傷が見られたが,これは電磁波よるものだったんだ」と説明していますが,この説明では何がなんだか判りません。電磁気学的には説明不十分です。

 それと,カルト教団の事件との絡みも説明不十分。このストーリー展開なら,何もカルト教団を登場させる必要はなかったような気がします。「なんでカルト教団を登場させたんだろうか? 何か意味があるんだろうか?」と悩んでしまいましたが,どう考えても意味はなかったような気が・・・。


 それと,最後にウジャウジャしているゴキブリ君たちが集まって,一匹の巨大ゴキブリになり,ヒーローとヒロインを襲う最後のクライマックス(?)は,何が何でも変。ゴキブリ同士が合体して一つの体になるわけはないんだから,これはあくまでも「ゴキブリが集まったの」に過ぎません。だから,ショットガンで撃たれても当たったところがちょっと空洞になるだけで,襲ってくるスピードは変わらないわけで,その様子は映画で描かれています。

 それなのに,この巨大ゴキブリにトラックをぶつけて押しつぶして爆破するってのはおかしくないか? だってこのゴキブリ,小さなゴキブリが集まっただけだぜ。トラックがぶつかったとたんに,ゴキブリ君たちは四方八方に逃げちゃうはず。ショットガンで撃たれても何ともないのに,トラックに押しつぶされるか?


 そういえば,主人公の母親は癌の末期で自宅静養中,という設定なんですが,これもその後,全く触れられません。となれば,この設定も無駄ですね。

 それと,冒頭のバス運転手も,ヒロインの同僚の嫌味な刑事も,一匹のゴキブリが入り込み,胸腹部の臓器をそっくり喰っちゃうのですが(そう説明されています),後半,一人の人間にウンカの如く膨大な数のゴキブリがたかるのは,考えてみたら意味不明ですね。一匹で殺せるんなら,多数を集める必要は無いんじゃないでしょうか。ま,見栄えの問題なんだろうけど・・・。

 という具合で,手間と暇と金をかけているけど,いたるところでツメが甘い,ってやつですね。多分,脚本家が悪いんだろうな。

(2006/08/29)

 

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