《吸血家族》 (2004年,アメリカ)


 原題は "Immortal Ecstasy"。いわゆる吸血鬼映画ですが,なぜか途中から〔食人鬼+スプラッター路線〕に暴走します。しかもその暴走が意味不明。途中で何度も見るのを止めようと思いましたが,意地で最後まで見ました。最後のシーンに達したとき,どっと疲れを覚え,なぜか達成感を覚えました。そういう映画です。

 登場人物はそんなに多くないのにお互いの人間関係が濃くてゴチャゴチャしていて,その上,説明不足ときていますから,見ていない人にストーリーを説明するのはかなり大変です。というか,ストーリー展開がムチャクチャすぎます。私はこの手のムチャクチャ映画には結構ついていける方ですが,細かいところは説明するくせに,大元の部分の説明がないこういう映画は辛いです。


 どういう映画かというと,ある一家とその周囲の人間が吸血鬼になっちゃう映画です。最初に父親が吸血鬼になり,それから娘,妻,息子,息子の臨月の妻が順に吸血鬼化しますが,どういう経緯で最初に父親が吸血鬼になったかが全く説明されていません。最後の方でセルビアから来た少女(と説明されているが,顔を見ると結構老けている)というのが唐突に登場して(あっ,冒頭にもちょっとだけ映っていましたね),どうもこいつが一番最初の発端みたいなんだけど,全く説明がありません。映画会社の宣伝では,「謎のウイルスで吸血鬼に」とあったけど,そういう説明シーン,なかったような気が・・・。

 で,映画はこの父親の誕生日を家族で祝おうと準備しているシーンで始まるんだけど,この父親はビルのオーナーらしいんだけど,冷酷でしょうがない奴らしく,ビルに忍び込もうとした黒人少年を撃ち殺した(?)こともあるらしい(このエピソードが以後の人間関係で重要なはずなんだけど,なぜか,どういう事件だったのかは最後まで不明)


 長女は家を出てケースワーカーかなんかをしているんだけど,レズ関係の女の子と生活しているし,次女はなにやらいかがわしい商売(これも最後まで不明)をしている男と付き合っていて,部屋にその男が運んでくる大金を隠しているらしい。長男の妻は臨月なんだけど,その家に来る前にかなりの出血があったらしく,家に着いた時点でふらついています。オイオイ,臨月で出血したらさっさと病院に連れて行けよ,と思いますが,この長男ときたら,「かなりの出血だったけど大丈夫さ」と気にしていません。要するにまともな登場人物が一人もいません。

 こんなオヤジなんだから誕生日パーティーなんかしなくていいのに,ケーキなんかを用意していますが,パーティーといいながらケーキが一個あるだけです。ワインもその他のご馳走もありません。テーブルの上にケーキが一個載っているだけ。それならパーティーなんていうなよ。

 で,次女が付き合っている男が,黒人青年グループと何かの取引でトラブルを起こして打ち合いになるシーンですが,どうも黒人グループの一人が,上記の親父のビルで殺された少年の兄のようです。つまり,オヤジに恨みがあるようです。そこで,自分たちを騙した男と付き合っている次女が金を隠し持っていることを知り(このあたりもとっても不自然),その家のそばまで来ます。ここで普通なら,無理やり部屋に押し入り,金を奪うとこなんだけど,なぜか「窓に石でも投げてやろうぜ」なんて言っています。いい子なんだか悪い子なんだか理解に苦しみます。

 ところが,彼らの乗っている車にライフルを持った二人(どうも隣の住民らしいです)がやってきて,「おい,降りろ!」といっていきなり銃を突きつけちゃう。さすがはアメリカです。そこで,銃撃戦になって怪我をした一人を連れて,黒人グループがその親父の家に逃げ込んじゃう。人知を超える無理矢理なストーリー展開です。頭が痛くなってきます。


 その家では,父親がまず次女に噛み付いて吸血鬼にして,その次に次女が母親に・・・という具合に次々と吸血鬼化します。しかし,お互いの血液を飲み合わないと完全な吸血鬼にならないというルールがあるらしく,父親の血を飲まなかった長女だけが完全変身できずに理性を持っていて,結局,黒人グループの一人と家を抜け出します。

 そこでどこに行くかと思うと,「安全なところといえば・・・」と娘が思いつくのがなんと,親父の浮気相手のストリッパーの自宅。もちろん,このストリッパーさんは既に吸血鬼になっていますから,またもや流血の格闘シーンになります。ストリッパーさんですからオッパイ丸出しです。ホラー映画にありがちな「意味のないお色気シーン」ってやつだな。

 で,何だかんだがあって,結局長女と黒人青年はなぜか自宅に戻っちゃう。そこでなぜか,長女は完全型吸血鬼になっちゃって(理由は不明),そこらに落ちている死体をムシャムシャ食べ始めます。すると,吸血鬼君たちが集まってきて,一緒にムシャムシャお食事会。オイオイ,吸血鬼って死体を食っちゃうの? それって別の映画ジャンルじゃないか? 何はともあれ,みんなで死体の臓物なんぞを美味しそうに食べています。さっきまでまともだった黒人青年も一緒にパクパク美味しそうです。

 ところが,そこでまたなぜか,長女と黒人青年の理性が戻っちゃって,吸血鬼が弱いものといえばアレですから,アレを使って・・・というところで映画は突如おしまい。吸血鬼軍団がどうなったのかは不明です。


 よくわからないといえば,冒頭から停電状態であることが強調されていること。映画の展開から言えば停電である必然性はゼロ。照明代をケチるために,停電で暗いのさ,という設定にしたのかもしれません。

 低予算映画の恒として,舞台となるのはこの親父の家とその近くの公園だけです。この吸血鬼化で町がパニックになっている様子はありません。この家の中だけの出来事だった模様です。


 ところで,最後に説明される「セルビアからきた曾おじいちゃん」って結局何だったの? あの少女がかぶっていたお面(縁日の露天とかで売っているセルロイドのお面みたいなやつ)は何だったの? 何でお面をかぶっていたの? 映画冒頭の猫の死体はいったい何だったの?


 こういう,わけのわからん吸血鬼だか食人鬼だか不明,謎が謎のまま放置プレーされるという映画ですが,クズ映画ファンなら必見でしょう。

(2006/07/05)

 

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