《リンダ リンダ リンダ》(2005年,日本)


 いい映画だ。女子高校生4人がバンドを組んで学園祭で演奏する,それだけの映画なんだけど,こいつらのひたむきさとやる気とパワーには,正直,泣きました。特に,アメリカのホラー映画に出てくる「こいつら,脳味噌,入ってるのか? お前ら,男の子としか考えてないのか?」という馬鹿女子高校生が登場する映画ばかり見た後では,この映画の女子高生たちは清々しく,感動的でした。


 要するにこれは,《ウォーター・ボーイズ》とか《スウィング・ガールズ》と同系統の映画です。何かを始めようとするけど,最初のうちはいろいろなトラブルがあってうまく行かなくて,仲間割れとかもあって,でも,次第にその魅力にとりつかれ,まわりで応援する人も出てきたりして,やがて感動の結末を迎える,というタイプの映画。

 このタイプの映画では,下手だった連中がうまくなる過程の説明に大体難点があります。《ウォーター・ボーイズ》ではイルカの調教師が指導するし,《スウィング・ガールズ》では演奏ができないジャズオタクが指導者役でしたがすが(どちらも竹中直人が演じてましたね),あれで本当にうまくなるの,という疑問は誰しも持ったはずです。ちょっと出来すぎだよね,というツッコミは絶対に入るはずです。しかし,その後のシンクロ演技やジャズの演奏があまりにも素晴らしすぎるため,もうそんな野暮なツッコミを忘れちゃうのがこういう映画の強み。

 その点,この映画ではそういう不自然さはあまりありません。唯一,ギターが3日であそこまでうまくなるか,日本語の発音があれほどきれいにできるようになるのか,くらいでしょうか? こんな点,どうだっていいです。でも,最期の演奏シーンを見たら,そんなことはどうでもよくなります。圧倒的な迫力のある演奏には,息を呑むしかありません。


 どういう映画かというと単純明快。学園祭での演奏を控えたバンドの一員が指を骨折してしまい,代役を立てるかどうかで仲間割れ。そこで3人(ギターとベースとドラム)がボーカルをしてくれないかと声をかけた相手が韓国からの留学生。ところが彼女,片言の日本語を話すのがやっとである。しかも演奏は3日後だ。迷っている暇はない,留学生には日本語の歌を覚えてもらい,ギターの猛特訓をするしかない。だから,4人は寝る間も惜しんで特訓する。

 そして最終日当日,控え室には彼女たちの姿がない。明け方まで練習して眠り込んでいたのだ。携帯電話で起こされた彼女たちだが,外は土砂降り。雨の中をひたすら走る4人。彼女たちが到着するまで,軽音の仲間たちが時間稼ぎをしてくれる。最初は人もまばらだったが,雨を避けるために人が集まってくる。そこに4人がなんとか到着。4人は裸足でステージに上がり,ブルー・ハーツの『リンダリンダ』を演奏する。その絶唱が体育館を揺るがす。


 とにかく,ボーカルの留学生ソン役をしているペ・ドゥナがいいです。歌唱力がどうたらこうたらという以前に,ひたむきに歌う姿勢が格好いいです。あの細い体のどこからこんな声が出るの,というくらい伸びやかな迫力のある歌声です。

 その彼女に一目惚れする男子高校生(もちろん日本人)が彼女に告白するシーンがありますが,その告白のためにハングルを勉強し,一生懸命に覚えた韓国語で思いを告げます。もちろん振られます。このためにハングルを勉強するなんて,馬鹿だけど偉いぞ。お父さん,褒めちゃうぞ。

 あるいは,日本語が全然できないソンと,日本語しかできないギターを弾く女の子が,韓国語と日本語で会話するシーンもいいです。言葉が全然伝わっていないんだけど,言いたいことがお互いわかっています。そこがいいです。


 多分,この映画を作った人はバンドとか音楽の面白さがわかっていて,それをみんなに知って欲しくてこういう映画を作ったんだろうと思います。だから,取り上げる曲目もその魅力を最も伝えられるものを吟味して選んたはずです。その真摯さが観客にも伝わってきます。

 私は普段,歌がある音楽は聴きませんが,この映画で繰り返し演奏される『リンダリンダ』や『終わらない歌』の,ひたすら熱くてストレートな応援歌みたいな歌詞には,ちょっとぐっと来ました。

 お前ら,頑張れよ!

(2006/05/17)

 

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