《ミミック 3》(2003年,アメリカ)


 昆虫ホラー物の第3作で,第1作,第2作を見ていないと何がなんだか判らない映画です。それどころか,前2作をしっかり見ていても「一体この映画は何だったの?」と呆然とする映画です。唯一の救いは,72分と短いことです。それ以外に評価できる点は何も無いというクソ映画です。


 というわけで,このシリーズについてちょっと説明。

 第1作目はニューヨークで子供だけ感染する未知の致死性伝染病が発生し,それをゴキブリが感染源だということが判明するところから始まります。そのゴキブリを全滅させるために新種の昆虫「ユダの血統」が遺伝子工学で作り出されて放たれ,ゴキブリが絶滅して事態は一旦収まるんだけど,3年後,猟奇殺人事件が連続。これが実はユダの血統から進化した巨大昆虫の仕業で,人間の姿に擬態(ミミック)する能力を獲得してしまった,という映画で,昆虫ホラー映画としてはまずまず合格点。ちなみに第1作の主戦場は地下鉄でした。

 そして第2作では,顔の皮膚を剥ぎ取られ内臓が食われた死体が発見され,これがさらに進化した「ユダの血統」の仕業で,この「ユダの血統」を作った昆虫学者が学校の中にその巣があることを見つけ,学校で死闘を繰り広げます。そこそこ合格点ギリギリかな? 第1作目より舞台が小さく狭くなっています。


 そして第3作がこの映画。主人公は,シリーズ1のゴキブリ病の後遺症(?)による化学物質過敏症を患う青年と,その妹(こちらは健康人だけどジャンキー)。この兄は過敏症のために外に出られず,窓から外を眺めては隣のビルの住人の生活を盗撮するのが唯一の趣味です。可哀想な奴だな,という気もちょっとしますが,考えてみたら,とんでもない奴です。

 彼が外に出られないため,映画の舞台は彼の部屋と部屋から見える隣のビル,そして周辺の道路だけとごく狭いです。つまり,映画の舞台はシリーズを重ねるごとにスケールダウンしています。そして,「普通のホラー映画」⇒「しょうもないB級映画」⇒「見るも哀れなダメ映画」の道を辿る様子に「もののあはれ」を感じます。シリーズ第2作を単独で見ると「水準以下のホラー映画」ですが,この第3作と比べるとすごい傑作に思えてきます。そのくらい第3作がしょぼいです。

 というわけで,映画の半分以上のシーンはカメラのファインダー越しの画像です。当然,暗くてよく見えません。「ユダの血統」が人を襲うシーンもファインダー越しか窓越しですから,何が起こっているのか,よほど目をこらさないとさっぱり判りません。動体視力を養うのに使えそうです。
 おまけに30秒くらいで画面がブツブツ切れては暗くなり,長く続くシーンがありません。だから見ていてイライラします。

 それにしても,隣のビルの住人,夜でもカーテンを開けっ放しで,中は見えまくり状態です。そういう趣味の人たちだけ住んでいるビルなんでしょう。


 また,出てくる「ユダの血統」は進化版のはずなんだけど,どう見ても能力は進化していませんし,数も2匹だけです。能力は退化しているし,繁殖力も減退しています。最後のほうで2匹は簡単に死んじゃいます。そのため,モンスター映画にお決まりの「モンスターとの死闘シーン」はありませんし,「ユダの血統」の全身が登場するのは最後の5分くらいだけです。「ユダの血統の末裔」の全身の様子がよく判らないうちに映画は終わります。意地でも観客に「ユダの血統」を見せてたまるもんか,という執念すら感じます。

 「ゴミ男」と兄妹の兄が呼ぶ隣のビルの住人が,何故か「ユダの血統の卵」を所有しています。普通ならコイツが黒幕というか,中心人物になるはずなんだけど,なぜ卵を持っていたのかは最後まで明かされず,おまけにあっけなく死んじゃいます。

 というわけで,この映画を見た人は口々に叫ぶはずです。「一体全体,この映画は何なんだ!」


 風の噂によると,この第3作目のあまりの情けなさに,それ以降のシリーズ作成が中止されたらしいです。めでたし,めでたし。

(2006/04/14)

 

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