ザ・テンタクルズ(2002年,アメリカ)


裕福な女性との結婚が決まったデイヴィッドは、好きだった探検から身を引くつもりでいた。だが、幼馴染のジェイクは、有無を言わさず最後の冒険へと連れて行く。
 こういう風に紹介されているモンスターパニック映画ですが,ツッコミどころ満載,というか,どっからツッコミを入れたらいいか迷ってしまうほど嬉しい映画です。


 まず,舞台はインドの洞窟。この時点で笑っちゃいませんか? 何でアメリカ映画でインドなの? ロッキー山脈の洞窟とかメキシコの洞窟でもよかったんじゃないの?
 そのインドにある,これまで洞窟の底にまで到達できたのは5人だけという,かなり難易度の高い洞窟に挑んじゃう青年達の物語です。そこで廃棄物汚染で巨大化した人食いムカデに出くわして,命からがら脱出するというパニック映画の王道のようなストーリーです。しかし,なぜか舞台がインドでインド人俳優が救助隊として登場するため,彼らが登場するシーンだけ脱力お笑い映画になっています。つまり,インド人捜索隊がいつものインド映画のノリ(=コミックモード)で演技しているため,洞窟に閉じ込められた主人公たちの命がけのシリアスな脱出シーンと,見事なまでにミスマッチです。見事なまでの違和感です。能の舞台にいきなり「変なおじさん」が登場するような「トンデモ感」です。「これ,バレンタインのプレゼント」とタタミイワシをプレゼントされるようなものです。

 というか,そもそもこの映画でインドを舞台にする必然性がまったくないのです。インドを舞台にさえしなければ,普通のパニック映画だったはずです。もしかしたら出演した俳優が,「インドに行きたいな。インドで撮影しなければ,俺は出ないよ」と,駄々をこねたんでしょうか?


 ちなみに原題は“CENTIPEDE!”,つまりそのものずばりの「ムカデ」です。一方,邦題の「テンタクルズ」とはタコなどの触手の意味です。つまり,原題と邦題,何の関連性もありません。一体,何のつもりでこんな日本語のタイトルにしたんでしょうか。そういえば昔の映画で,巨大タコが登場する『テンタクルズ』という映画がありましたが,それと間違ってくれることを期待してこのタイトルにしたんでしょうか。


 で,デイヴィッド君たち一行(男6人,女2人で,このうち女性の一人のセーラは昔,デイヴィッド君と付き合っていたらしい。この手の映画によくあるパターンですね)はインド人ガイドに案内されてこの洞窟に挑むんだけど,このインド人ガイドは普段着のままの軽装です。ヘッドランプもなければリュックもなし。草履みたいなのを履いているような感じで,全くの手ぶらです。ちょっとコンビニに,という服装です。こんなんで「これまで地底にたどり着けたのは5人」という洞窟に挑むんだから,ここでまず笑わせてくれます。

 しかも,たいした苦労もなしに10分くらいで,「おめでとう,ここが最深部です。入り口から5キロの地点です」とガイド君が祝福するシーンになっちゃう。このガイドの軽装で到達できるんなら,もしかしたら5メートルしか進んでいないんじゃないか?。
 そう言えば,映画の冒頭で洞窟周辺の土壌汚染を調べているインド人の大学生がこの洞窟に入り,そこで怪物に襲われるんだけど,この二人にしても洞窟探検の装備もなしに普段着で最深部に到着していましたね。だからこの洞窟,全然難しくない初心者向けの洞窟としか思えません。

 そう言えば,探検隊の女性二人は肌を露出しすぎです。ノースリーブに短パン,おまけに臍出しルックです。おっぱいの谷間も見えまくりです。まるで,倖田來未かブリトニー・スピアーズです。こんな姿で狭い洞窟を進んだら,すぐに全身すりむき傷と切り傷だらけになるはずです。それなのに傷一つ無いのですから,2人とも岩より硬い皮膚の持ち主なんでしょうか。

 それは置いとくとして,地底に到達したデイヴィッド君たちは音楽をガンガンかけて踊りだします。おねえちゃん2人の踊りがストリッパーみたいでいやらしいです。そういうお仕事をしていたんでしょう・・・多分。地底の洞窟で踊るなんて,アメリカ人って馬鹿だねぇ。

 で,このにーちゃん,ねーちゃんたちの踊りに地の神様が怒ったんでしょう。大地震が起きて入り口が岩で塞がれます。ほうら,言わんこっちゃない。ばちが当たったんだよ。


 そして,巨大ムカデが襲ってくるんですが,このムカデ,どう見ても安っぽい作り物にしか見えないんですよ。低予算映画の悲哀を感じるシーンです。

 それでデイヴィッド君たちは「張りぼてムカデ」に襲われて,出口を探して洞窟の奥に進むわけですね。次第にヘッドランプや懐中電灯の明かりは消えてくるし,後ろから怪物は迫ってくる。そして地底湖(というか水溜りみたいに見えるが)にぶつかり,ここを潜ってさらに奥に非難。ところが怪物ムカデは水を潜ってさらに追ってくるのですよ。


 さあ,このシーン,ツッコミどころが一杯ですよ。まず,この地底湖にたどり着いた時点でヘッドランプは消えていて(というか,逃げる途中でヘルメットをどっかに置いてきている),懐中電灯もなし。つまり,明かりがなくて真っ黒闇になっているはずなのに,なぜかとても明るいのです。さっきまで,ヘッドランプをつけても怪物の正体がよく見えなかったのに,光源がなくなったとたんに怪物の全身がよく見えるようになっちゃう。「光があると暗くて,光が消えたら明るくなるもの,なーんだ」って,なぞなぞか,こりゃ?

 そして,何人かが食われちゃって,もうおしまいかというところで,なぜか一人が持っていた照明弾(?)を発射して,それがムカデの頭部に当たり,怪物はあっけなく御昇天。やっつけたぜ,と大喜びなんだけど,照明弾を撃ったのはおねえちゃんは,何を頼りに真っ暗闇の中で頭に命中させるられたんだろう? 先天性眼球暗視野スコープ症候群の患者でしょうか。光がなくて見えるんなら,最初からヘッドランプも懐中電灯も要らなかったんじゃないでしょうか。


 それは置いておくとしても,ムカデのような節足動物は各体節ごとに神経節があるため,頭をつぶしてもしばらくは動きます。だからこの「頭を撃たれてすぐに動かなくなる」というシーンはおかしいです。ま,そんなのは些細だけど・・・。

 そう言えば,映画の途中で「怪物の幼虫」がウジャウジャしているシーンがありますが,ムカデは変態しない節足動物です。ところが,この映画に登場する幼虫はどう見てもイモムシです。形からすると,蝶や我の幼虫ですね。どう見ても「ムカデの幼虫」ではありません。もうちょっと,生物学を勉強した方がいいと思います。

 さらにいうとこの「張りぼてムカデ」の口の作りが雑すぎます。これじゃまるで,オオクワガタの角です。節足動物の口じゃありません。もっと勉強してから作りましょうね。この辺りにも低予算の悲哀が漂います。

 巨大ムカデが水の中を泳いで追ってくるのもかなり無茶。水中を泳げるかという問題は無視するとしても,水中で何を頼りに人間を追ってきたんでしょうか。水中だから視覚も効かないし,振動覚も感知できないはず。もちろん,嗅覚も効きません。つまり,水中を泳げたとしても,獲物を追うことは不可能です。さらに,水中を追ってきたムカデをみて「早く水から上がれ」と仲間を引き上げるのもおかしい。もともと陸の生物ですから,水から上がっても追ってきますってば。


 その後,デイヴィッド君たち何かの保管庫(ここに廃棄物の不法投棄があって,その毒物が巨大化の原因だったと謎解きがあります)に到着し,何とか外の捜索隊と連絡が取れ,保管庫の扉を爆破してもらい,かろうじて地上に出られます。
 ようやく助かったと思ったら,彼らを追ってムカデ君が地表に登場して大暴れ。危機一髪のところでセーラちゃんがなぜか警察のトラックにダイナマイトがあることを知っていて,それでふっ飛ばしちゃう。セーラちゃん,ナイスな判断力というか細木数子級の透視力です。

 そして,九死に一生を得たデイヴィッド君,「もう,結婚なんてやめた」なんてほざいてセーラちゃんとベタベタ,ハグハグしちゃう。あのね,君のために親友達が開いてくれた冒険パーティーで大勢の仲間が死んだんだぞ。それなのに,「これから僕は君と冒険に生きるんだ!」と抱き合うんだから,こいつ,馬鹿です。こういう馬鹿と抱き合うセーラは輪をかけた馬鹿です。こんな能天気な馬鹿コンビのバカップル,一番最初にムカデ君が喰って欲しかったです。こいつらは喰っていいです。許します。

 そうそう,全く映画に登場せず,一方的な理由で婚約を破棄されるデイヴィッド君の婚約者,可哀想でなりません。彼女には何の落ち度もないからです。デイヴィッド君は帰国して,彼女に「君とは結婚しないからね」といきなり言ったんでしょうか。だとすると,こいつはとんでもない冷血野郎です。


 それにしても,これらの巨大ムカデたちはそれまで,何を食べて成長したんでしょうか。餌と言えば,迷い込んでくる人間とか動物くらいしかいないでしょうから,この大きさまで育つのはちょっと無理ではないでしょうか。

 それと,この巨大ムカデの成虫(?)2匹を倒しただけでは全く解決になっていないんだけど,これはどうするんでしょうか。あれほど幼虫がウジャウジャいたんだから,2匹をやっつけてもどうしようもないはずです。


 インド映画の味わいが好き,とか,矛盾だらけの設定が好き,とか,安っぽい怪物映画が好きな人にはお勧めかな?

(2006/02/20)

 

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