《シェイクダウン》(2002年,アメリカ)


 カルト集団によるバイオテロと大地震をミックスさせて,それに姉弟間の家族愛をまぶしたという感じの映画です。感動するほどの映画ではありませんが,それなりに楽しめます。ただ,見終わってストーリーを反芻すると,設定がかなり強引と言うか,出来過ぎという部分がかなりあります。

 内容としては大体こういう感じ。

 ある研究所から空気感染型の致死性疾患を引き起こすウイルスが盗み出されます。どの位恐ろしいかというと,研究者が「これに比べたらエボラなんて単なる皮膚病みたいなものさ」とかいう風に説明しております。映画の中では炭疽菌と説明されていましたが,炭疽菌はウイルスじゃないので,これは明らかに作り手側の勉強不足。で,盗み出したのはその研究所の研究者(後に,家族を人質に取られて盗み出さざるを得なかったことが明かされます)。この研究者を脅していたのは世界の破壊と魂の救済とかを唱えるカルト集団で,文明社会を破壊するためにウイルスを世界中にばらまこうなんて考えています。まぁ,よくある設定です。


 この映画の特徴は,何でそんなに都合よく事件が重なっちゃうの? というところにあります。

 盗まれたウイルスを捜査しているFBIのもとに,「○銀行の貸金庫にウイルスがあり,ここでウイルスと金の交換が行われる」という匿名電話がかかってきます(後に,盗み出した研究者が電話したことが明かされます)。そこで銀行に変装したFBI捜査員を多数張り込ませ,犯人がやってくるのを待っていたわけですね。そこに研究者とカルト集団の教祖が登場。ちなみにカルト集団の他の連中は武装して地下駐車場とかに潜んでいます。
 そして,ウイルスと金の引渡しが行われようとするその瞬間,FBIが逮捕のために踏み込もうとします。

 これで十分に映画になるはずなんですが,なぜかこの銀行に銀行強盗団が登場! 「金を出せ」と銃をぶっ放しちゃう。しょうがないのでFBIが銀行内に踏み込んで強盗君たちと撃ち合いになるんだけど,両方とも想定の範囲外の相手なんで混乱しちゃいます。そこに武装カルト集団まで参戦するわけで,3者ともに「お前らは誰なんだ,なんでここにいるんだ。訳がわからないがとにかく,自分たち以外は全て敵だろう」と考えちゃうわけで,三つどもえの銃撃戦になります。


 これだけでも十分に混乱しているというか,そんなのありかよ,そんなに都合よくウイルスの受け渡しのその瞬間を狙ったように銀行強盗が押し込むわけがないじゃん,という感じですが,この映画はそれでも足りないと考えたらしく,この三重銃撃戦の瞬間を狙ったように大地震まで起こします。それも半端な地震でなく,ロスが壊滅するくらいすごい地震です。銃撃戦の現場でも天井は落ちてくるわ,壁が崩れるわ,ビルが傾くわ,と大混乱。当然,生きるか死ぬかの瀬戸際なんで,銃撃戦は一時中断になります。


 前述のように,この映画の設定はかなり無茶苦茶です。ウイルスの受け渡しの舞台となった銀行で,全く同じ時刻に銀行強盗が入るなんて,まさに天文学的確率でしょう。しかも,それから数分後に未曾有の大地震ですよ。この3つが重なる確率なんて,「秋田の田舎道を歩いていたら,倒れている人を発見し,それが実はアラブの王様で,彼について某王国に行ったら,生き別れになった妹と偶然再会し,彼女は王様の第4夫人になっていた」くらいの確率ですよ。


 で,この後どうなるかというと,地震がおさまるとまた銃撃戦再開です。みんなで協力し合えば命は助かったと思われますが,生存欲より殺人欲が強いと見え,目の前の敵を倒すことしか頭にないんですね。ウイルスだけは何が何でも手に入れなければいけない,というカルト集団と,銀行の金は俺たちのもの,という強盗集団と,悪者はとにかく殺しちゃえ,というFBIですから,引くという事を知りません。瓦礫の中でバカスカ銃撃戦を続けます。

 で,なぜか銀行強盗団だけが全滅しちゃって(カルト集団やFBIより人殺しに慣れていなかったんでしょう・・・多分),主人公のFBI捜査官(と彼に協力するヒロイン)と,武装カルト集団の対決となります。そしてウイルスを持って逃げるFBI捜査官とカルト集団が銃撃戦をするわ,廃墟と化したビルの中を逃げるわ,ビルに爆弾を仕掛けてくるわ,ウイルスが世界中に広がるのを恐れた大統領が中性子爆弾投下を命じるわ,途中で何度も激しい余震があるわと,最後までアクションシーンが続きます。ま,その点では飽きないでしょう。


 最後はめでたし,めでたしで終わるんですが,ふと考えると,「何のために銀行強盗が出てきたんだろう」という疑問を感じるはずです。だって,最初の地震の後の銃撃戦でこの連中は,ヒロインの弟を残して全滅しちゃうわけで,その後の物語の進行には全く関与しません。・・・ってことは,銀行強盗団は最初から必要ないんじゃないか,という気がしてきます。

 では,なぜ銀行強盗段が出てきたかというと,ヒロインと彼女の弟を登場させるためなんですね。弟思いの姉の愛で弟が立ち直るためには,その前に弟がグレていないと駄目なわけで,どうせグレているんなら銀行強盗団の一味の方が面白いわけで,どうせ立ち直るなら生死の狭間で立ち直った方がストーリーとしては美味しいわけで・・・という「逆算の理論」でこんな取って付けたようなストーリーになったんでしょう。つまり,あの銀行強盗たちは,ヒロインの弟のために銀行に押し入り,全員,射殺されちゃったのですよ。まさに捨て駒ですね。


 それにしても,このヒロインは偶然事件に巻き込まれただけのごく普通の一般人という設定のはずなんですが(ちなみに,医学部を中退したけれど,また医学を学びたい,と考えているという設定ですね),身体能力も戦闘能力も常人離れしています。武装訓練を受けているカルト集団を相手に五分五分の戦いをします。とりわけ,最後の場面で,数10センチ上からいきなり落ちてきたウイルスの入ったガラス瓶を割らずにキャッチすることに成功するところなんざ,超一流ボクサーを凌ぐ動体視力と反射神経,そして運動能力です。
 上述のように,彼女は将来医者になりたいらしいですが,この運動能力,戦闘能力を生かす職業について欲しいものです。FBIかCIAは彼女をスカウトすべきです。

(2006/02/17)

 

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