『テラー・ピーク(Terror Peak)』


いわゆる火山パニックものです。現在,DVDが販売されていて,メーカーは次のように宣伝しています。

半世紀の眠りから醒めた。活火山“エクストリーム山”平和な南国の楽園は一瞬にしてこの世の地獄と化した。そして天を裂き、地を裂く大噴火の瞬間がせまる!!驚異のVFX映像で大自然の猛威を描く。"マグマ・パニック"超大作!!

 これは誇大広告です。確かにそれまで噴火しなかった山が目覚めて噴火するし,楽園は大変なことになりますが「地獄絵図」ではないです。人々が逃げまどうシーンにしても,火山弾が降ってくるシーンにしても,逃げ出す人間のエキストラが少なすぎるため,「この程度なの?」という感じです。特に,あの傑作『ボルケーノ』を見た後だと,余計にそのチープさがもの悲しくなります。だから,この映画を「マグマ・パニック超大作」なんて宣伝してはいけません。


 迫力がない分,それを補うためにこの映画は人情劇に重きを置いています。アメリカ映画が好んで描く「崩壊しかかった家族が危機に際して団結し,家族愛を取り戻す」ってやつです。その点ではこの映画は悪くありません・・・というか,普通のできです。もしかしたら,

   「うまくいっていない親子関係を再生させるドラマを作りたい」
        ↓
   「そのためには何か異常事態に家族が巻き込まれるなんていいんじゃない?」
        ↓
   「それじゃ,火山噴火なんかどうだろう」
        ↓
   「他にもそういう映画なかったっけ?」
        ↓
   「それなら先住民族と絡めたら物語に奥行きが出るんじゃないかなぁ」

ってな会話があったのかもしれません。

 主な登場人物は3人,旅行会社の役員(?)をしている父親,その再婚相手(1年前に再婚)の女性地質学者と彼女の17歳の連れ子です。この再婚父は新しくできた娘に信頼して欲しいと思っているんだけどうまくいっていません(まぁ,当たり前だろうなぁ)。それでバカンスを利用して3人でニュージーランド(だったかな?)で一緒に暮らせば,心が通うんじゃないかと考えたわけです。もちろん,自社で企画しているツアーの下見,というのもあったりするわけですが・・・。

 ついでにいうと,地質学者の再婚母は前の夫をフィリピンの火山噴火(話からするとピナツボ火山でしょう)で亡くし,その時,自分だけ逃げて助かったというトラウマ持ち(これもこういう映画ではお約束の設定ですね)だったりするわけですね。


 このような設定さえ決まってしまえば,その後の展開は型どおり。どうするかというと火山噴火に伴って3人をバラバラにしちゃうんですね。つまり,それぞれの冒険と苦労,危機を同時進行的に描き,苦難の末の再開ドラマにしちゃう。

 娘はロッククライミングかなんかの最中に地震に遭遇し,ガイド(お約束通り,イケメンで責任感の強い好青年)と二人で洞窟に逃げ,その入り口が落石で塞がれます。洞窟の二人は出口を求めて動くんだけど,マグマは流れてくるわ,水蒸気は吹き出すわ,道が崩れてマグマの中に落ちそうになるわと,次々と「定番災害」が襲いかかり,二人は協力してそれを乗り越えます。

 一方の父親は,無線で妻と連絡を取りながら,慣れない山道や崖を登りながら洞窟の出口に向かい,そこで絶体絶命状態の娘とガイド君を発見。ついに娘を救出。抱き合う二人。二人が「真の親子」になった瞬間ですね。そういえば,この父親は途中で喘息薬(?)を落としてしまいます。しかも空気は火山灰だらけ。もちろん,根性で乗り切ったのですが,根性だけで乗り切れるものかどうか,呼吸器疾患の専門家から見たらどうでしょうか。

 父と娘が出会ったといっても,そこは火山弾なんかが降っている山の中,走って逃げられる状態じゃありません。そこで妻が夫と娘(+ガイド君)を助け出すためにある方法を考え出します。ま,このくらいは謎にしときましょう。ここでは,この映画の冒頭から登場する端役二人(先住民族マオリ族のおっさん)が大活躍します。ちなみに映画の一番最初の方で,なぜこの救出方法を思いつくかの伏線となる会話がありましたね。この二人の「男の友情」みたいな会話,ちょっとベタですが,なかなかいいです。


 ま,こういう映画です。人情劇としてはよくある感じの普通の映画です。ただ,『ボルケーノ』のような「ハリウッドが総力を挙げて作成。構想5年。総額○○億ドル!」というのを期待すると,かなりと拍子抜けします。火山が噴火しているシーンもワンパターンだし,洞窟で水蒸気が吹き出しているところも「撮影セットから湯気が吹き出してます」という感じ。崖にしがみついている二人が危うく落ちそうになるマグマの川も,遠近感が変。第一,マグマがあちこちから吹き出しているんなら,洞窟全体が灼熱地獄で,とても生存できないはずなんだけど・・・。そういえば,この状態で火傷患者が一人もいないというのもなんだかなぁ。


 それと,いつもこういう映画を見て思うのですが,火山と遭難者の位置関係,遭難者と救助者の相互の位置関係がわかりにくくないですか。要所要所で地図で表示してくれないものでしょうか。そうしたら,すごくわかりやすいのに・・・。

(2006/01/27)

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