地震予知と褥創の局所評価法


1.地震予知はできるのか?

 ここにコップがあるとしよう。これを床に落とした時,破片がどのように飛び散るか予測できるだろうか? 予測できるという立場に立つのが「地震予知は可能」というものであり,完全な予測は不可能という立場に立つと「地震予知は不可能」になるらしい。
 コップと地震,どこに共通点があるかというと,両方とも「破壊現象」だということで一致している。つまり,地震は岩盤とかプレートとか(よくわからないけど)が破壊される現象なのである。

 もしも,完全に同じ材質で形も全く同じコップを2個用意し,落とす高さもミクロン単位で一致させ,コップの傾きも完全に一致させ,もちろん床に落とす場所も完全に一致させたら,1個目のコップの破片の飛び散り方から,2個目の破片の飛散状況を予測できるのかもしれない。しかしこれはあくまでも理想の話であり,コップにほんのわずかな違い(それこそミクロン単位の歪みとかね)があれば,破片の飛び散り方は似ているだろうが,全く同じというわけにはいかないだろう。

 つまり,地震予知とはそういうことらしいのだ。同じコップで,落とす高さもコップの傾きも一致・・・という前提があれば2個目のコップの割れ方を予知できるが,現実の地震では,コップの材質が同じという前提も,床の固さが同じという前提も,落とす高さが同じという前提も通用しない。つまり,1回ごとに地震の起き方が違っているため,「前の地震がこうだったから次もこうなるだろう」という予測は全くできないらしい。要するに,予測の前提となる項目自体が,毎回違っているのである。

 つまり,対象が破壊現象である限り,科学的予測は難しいということになる。


 地震と褥創,外傷の共通点は何かといえば,いずれも「破壊現象」だという点である。褥創の分類や評価法がさまざまあって,それぞれに長短があるのは根本的に,褥創が「破壊現象」であるためなのだと思う。


2.外傷と主病名

 「主病名を必ず付けること」はいまや必須の行為である。これも普通の「疾患」であれば,まぁ多少の問題はあるもののそれを付けることは難しくない。しかし多発外傷の患者では,これが途端に訳がわからなくなる。訳がわからないままに,適当な病名を「主病名」にしている(・・・私だけかな?)

 例えば交通事故で,右頬部を裂傷し,額に深いすりむき傷があり,右の橈骨が折れ,左の足関節捻挫があり,腰部も打撲している患者の主病名って何なんだろう?
 右手の示指指尖部を切断し,環指の屈筋腱断裂,中指の屈筋腱と神経断裂という場合は,どれが主病名なんだろう?
 大腿部に深い裂傷があり,下腿に広範な挫傷があり,第5趾基節骨が骨折し,第1趾の爪甲剥離があったら,どれを主病名にしたらいいんだろう?

 上記のような例は決して珍しくない。特に交通外傷や労災事故では,どこか一箇所の外傷という方が,むしろ珍しいはずだ。私は面倒なんで,一番目立つ傷とか,一番治療が長引きそうな傷を主病名にしているが,果たしてこれでいいのだろうか? 骨折と神経断裂で,どちらか一方がメインの外傷,なんて言えるのだろうか?


 なぜこんな疑問が生まれるかというと,「外傷は人体への破壊現象」であることに起因していると思う。要するにこの世の中には「全く同じ外傷」は存在しないのだ。部位や深さ,受傷部位の数など,100人の患者がいたら100通りの外傷がある世界だ。
 つまり,外傷を統一的に記述する分類法を作るのは,ガラスのコップの割れ方,破片の飛び散り方を分類するのに似ていないだろうか?

 要するに外傷は変幻自在な存在である。決まった形のないものである。それが「破壊現象」の本質である。

(2002/12/04)