当サイトへの反論にまとめて反撃!


 「このサイトを知人の医師(複数)に紹介したところ,次のような疑問,反論がありました」というメールをいただきました。これ以外にも反論などをいただいておりますので,まとめて反撃させていただきます。
 まず,これらの反論をまとめると次のようなものになります。

  1. 外傷に被覆材を使うように言っているがこれは被覆材メーカーを利するものであり,高価な被覆材を使うことは医療費を高騰させることになる。
  2. 「消毒とガーゼ」で治癒が遅れるといっているが,それは間違いではないか。今まで「消毒とガーゼ」でも傷は治ってきたのがその証拠だ。
  3. 「消毒とガーゼ」をやめただけで傷が速く治るという根拠はあるのか?
  4. これまで行ってきた「消毒とガーゼ」をいきなり止めると患者さんは不審に思うだろう。むしろ消毒は患者さんの安心のためにしているのだ。
  5. ガーゼで手術創を覆わないと,患者さんは糸がチクチクして困るではないか。
  6. 浸出液が多い感染創を被覆材で閉鎖すると膿が溜まるのではないか。従って湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)は間違いである。
  7. 浸出液が多い時には何かでそれを吸収しなければいけない。こういう時にガーゼをあてて何が悪い。
  8. 消毒を諸悪の根源のように書いているが,消毒薬を製造して生活している薬品メーカーもある。そこで働く人のことを考えているのか。
  9. 昔から知られている治療原理を外傷に応用しているだけなのに,「新しい」と称するのはおかしい。

 ううむ,見事なまでに「人力車医者」ですねぇ。情けないような反応です。


 これを「人力車と車」に言い換えてみるとよくわかります。

  1. (人力車でなく)車を使うのは自動車製造メーカーとガソリンスタンドを利するものであり,皆が車を買うようになると国民生活を逼迫させることになる。乗り物は値段の安い人力車で十分である。
  2. 人力車が遅いというのは間違っている。人力車は駕籠より速い乗り物であり,スピードは十分に速い。これまで人力車を利用してきたが,目的地にはきちんと着いてきた。従って人力車以外の乗り物は必要ない。
  3. 人力車から車に替えると速く目的地に到着できるというが,それは信じられない。
  4. 日本は人力車に慣れている国なので,人力車をなくすと国民が安心できない。国民の安心のために人力車は必要である。
  5. 人力車はゆっくり走るので,風景がゆっくりと鑑賞でき,有用である。
  6. 車で海(膿じゃないよ)の中を走ろうとしたら水が入ってきて危うく死にそうになった。だから車は無用で危険な乗り物である。
  7. 人力車には(人を運ぶという目的以外にも)大八車のように「物を運ぶ」のにも使える。この目的のためにも人力車は有用であり,荷物を運ぶのに人力車を使ってどこが悪いのだ。
  8. 人力車の車夫や人力車を作って生計を立てている人がいる。車に比べて人力車が遅くて不便だからという理由でそれを廃止すると,こういう人たちの生活が成り立たない。このような人たちの生活を脅かす権利があるのか。
  9. エンジンの原理は50年前から知られていて,それを初めて実用化したからといって「新しい乗り物」というのはおかしい。

 こう置き換えてみると,この反論のどこがおかしいか,一目瞭然でしょう? 一応,解説も書いときましょう。


  1. よく「被覆材は値段が高いから」という意見もいただきますが,「消毒とガーゼ」で毎日外来通院させ1ヶ月かかって完治させるより,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)にして5日で治癒させた方が安上がりです。要するに,従来の治療の方が高くつきます。被覆材の値段を見るのでなく,治癒に要する時間と通院回数のトータルで見るようにしましょう。簡単な足し算ができれば,どちらが得かすぐにわかります。

  2. これは湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を見たことがない「人力車医者」によくあるタイプの反論です。人力車しか乗ったことがないので人力車を過大評価しています。恐らく,Case Control Study の研究が苦手なタイプとお見受けいたします。まず Control をしっかりと設定してから研究を始めましょう。

  3. 車を見たこともないのに,「人力車より速い乗り物があるとは信じられない。なぜなら,私はそういうものを見たことがないからだ」というのと同じ。

  4. こういう反論をするのは患者さんに説明を怠るタイプのお医者様です。要するに説明するのが面倒なんですね。だから「消毒をしないと患者が納得しないから消毒をするし,消毒は必要だ」という理屈をこねくり回します(オイオイ,患者が納得するまで説明しろよ)
    これは喩えると,毒物が入っているとわかっている料理を「客が食べたがっているから」という理由で出し続けている料理人みたいなものです。こういう料理人(医者)にはこういってやりましょう。「なら,あんたがまずその料理を食え!(あんたが怪我をしたら,傷口にイソジンをたっぷり塗りこんでやり,次の日にガーゼを思いっきり剥してやるからな! その時泣くなよ!)」。

  5. 「傷を隠すもの」として私もよくガーゼは使います。縫った糸が見えると気持ち悪い,という患者さんには使いますよ(逆に,気にしない患者さんの場合は,ガーゼで覆わずに糸はむき出しにしています)
    でも,この目的のためだったら何もガーゼでなくてもいいわけで,ティッシュペーパーで傷を隠してもいいはずです。つまり,ガーゼの優位性を示す言い訳にはなっていません。

  6. 車の取り扱い説明書に「車で海に入らないで下さい」と書いてあるのに,わざわざ海に入り,車を故障させて「そんな説明なんて俺は読んでいない。こんな欠陥品を売った方が悪い」とイチャモンをつけるタイプの反論です。「○○には使用しないで下さい」という使い方をわざわざするタイプ。
    それよりも,このお医者様には,感染している膿と,感染していない単なる浸出液の区別がついているのか,そちらの方が心配になります。

  7. ガーゼには浸出液を吸収するという機能がある,というのも一理あるようですが,別にこれもガーゼでなくてもいいわけで,吸収能をいうのなら紙オムツのほうが有用です。
    第一,私はこのサイトで「皮膚欠損創の被覆材料としてのガーゼの問題点」を論じているのに,「水分吸収材料としてのガーゼ」を持ち出すのは,姑息な論点すり替えのような気がします。

  8. 死亡者を出した中国製の痩せ薬に対し,この薬を作って生計を立てている人がいるのだから,それを摘発するのは間違っている,あるいは,覚醒剤を売って生計を立てている人がいる以上,覚醒剤は社会的役割を果たしている,という論ですね。
    こういうタイプのお医者様は,中国製痩せ薬も覚醒剤も,有害ではないと認識されているようです。多分,嫌煙権運動に対し,タバコは無害だというデータを集めてくれるのは,こういうタイプのお医者様かもしれません。

  9. 湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)の有用性が始めて論文になったのは1958年です。つまり45年前から知られています。また,被覆材が商品化されたのも1970年代後半で,20年前から医療材料として使われてきました。
    しかし,「外傷治療に湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)」というのは今まで,ごく単発的な発表があるだけで,それを系統的に治療に応用しようとか,どういう医療材料で閉鎖すると創傷が早く治るかとか,治療する際に何に気をつけたらいいかとか,そういう論文はありません。私がこのサイトを作るまでは,外傷の湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)とは,個々の医者がひっそりと行っている治療でした。
    名著『ドレッシング』にも,外傷での湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)の有用性は書かれていますが,それはあくまでも治療原理だけの提示ですし,この本だけで実際の治療を始めようとすると途方に暮れてしまいます。
    私がこのサイトを作り始めたのは,その「湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を実際に行うためのノウハウ」を公開し,共有するためです。ですから別に「新しい創傷治療」でも「これからの創傷治療」でも「ちょっとましな創傷治療」でもタイトルはよかったのです。
    また,私がこういう治療を最初に考案した,なんて主張する気も毛頭ありません。


 私がなぜこのサイトを作っているかというと,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)「痛みのない外傷治療」を実現するものだからです。そしてその補助手段として,現在手に入る医療材料では創傷被覆材が最適だからです。
 なぜ,「消毒とガーゼ」を攻撃しているかというと,それが明らかに患者さんの害になっていることがわかったからです。

 それが患者さんに対して有害な行為だとわかったのに,それを患者さんに行う勇気は私はありません。私にとって「傷を消毒する」のは,患者さんに毒を盛るのと同じ行為です。臆病な私には,それができません。

 私の治療原理はきわめて簡単です。「患者さんに害になる行為はしない」,それだけです。

(2002/10/30)

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