ソフラチュールについて


 ソフラチュールについての問い合わせも多いので,これについてまとめてみる。

 まず,ソフラチュールとはどういう製品なのだろうか?
 手元のデータを見ると,その素材としては「コットン+無水ラノリン+白色ワセリン+硫酸フラジオマイシン」となっている。コットンといえば綿,フラジオマイシンは皆様よく御存知の抗菌剤,ワセリンはよく御存知のワセリンである。

 唯一あまりおなじみでないのは「無水ラノリン」であるが,これは「ハーブを利用してクリームを作ろう」なんていうサイトを覗くと,クリームの基材としてよく使われるものらしい。さらにしつこく「ラノリン」について調べてみたが,これは「羊毛を刈り取ってウールに仕上げる際に副産物として回収されるウールグリースを精製したもの。融点40℃付近の淡黄色の蝋状物質で、高級アルコール及び高級脂肪酸のワックスエステル」だそうである。

 要するに,網目状にした綿に抗菌剤を含ませた軟膏基材を練りこんだもの,と考えていいようである。問題はこれが創治癒にとって有効なものか,という点だ。


 もちろん,上記の「コットン+無水ラノリン+白色ワセリン+硫酸フラジオマイシン」でお判りのように,これはこのサイトで奨励している「創傷被覆材」ではなく,あの有害な「ガーゼ」とまったく変わりがない。従って皮膚欠損創には使うべきではない,というのが結論。

 しかしなぜか,日本中の病院,医者の間では「傷がグジュグジュして困った時はとりあえずソフラチュール」という考えが蔓延しているし,いわば常識化されている。いわば「ソフラチュール信仰」である。なぜこれほどまでに信頼されているか,原因を勝手に考えてみると

  1. 普通のガーゼと違い,軟膏でベトベトしているので,傷にくっつかないような印象があること
  2. 抗菌剤を含んでいるため,化膿している傷に有効と感じられること
 この2点だろうと思う。後者については確かに効く場合もあるかもしれないな,というのを否定するものではないが,前者についてはまったく根拠のない思い込みである。患者さんの皮膚欠損創にソフラチュールをあてている医者を見ると,「あんたが怪我をしたらソフラチュールをつけて次の日,思いっきり剥してやるけど,それでもいい?」と言いたくなる(患者が治療で受ける「痛み」にあまりに無頓着な医者ばかりいて,おどろいてしまうね)

 要するにソフラチュールだけでは傷の表面は乾燥してしまうし,創治癒は停止してしまう。はっきり言うと,これを付けておくくらいなら,家庭調理用のラップ(サ○ンラップなど)で覆った方が速く治るはずだ。


 ソフラチュールがもっとも駄目なのは,深い皮膚潰瘍,皮膚欠損創に使用した場合,せっかく上がってきた肉芽にソフラチュールの網目が食い込んでしまうことだろう。このため,ソフラチュールを剥そうとするとすごく痛いし,出血する羽目になる。もちろん,肉芽表面も傷つくため治癒は遅れてしまう。この理由から,少なくとも「肉芽が上がっている傷や深い皮膚欠損創」には絶対に使うべきではないと考える。

 どうしてもソフラチュールを使うのであれば,もう放っておいても治るだろう,というくらいにほぼ治癒している傷だけにとどめておくべきであろう。それ以外の傷に使った場合,それは医療行為でなく単なる障害行為である。

(2002/07/04)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください