熱傷と被覆材 −その矛盾の構造−


 実際の外傷治療の場で被覆材を使おうとする際によくわからないのが「熱傷での創傷被覆材の使用」だと思う。実は私も数日前まで,よくわからなかった。そして,調べてみると,とんでもない矛盾と混乱があることがわかった。
 今回は,この問題について論じてみたい。


 ご存知のように保険診療では,「熱傷」は一般の「外傷」と区別されている(これがそもそも間違っていると思うのだが・・・)。「創傷処置」と「熱傷処置」では同じ面積でも,後者の方が3倍高く請求できる。つまり「熱傷」という診断名さえ付いていれば,医療側にすると非常にお得なのだ。

 もしも熱傷の治療で「創傷被覆材」が使え(保険請求でき),しかも「熱傷治療」として処置料が3倍高く請求できるのであれば,これはもう言うことないのである。


 かたや,厚生労働省の薬事部会から公表されている皮膚欠損用創傷被覆材の機能区分と製品リストを見ると,デュオアクティブ,ハイドロサイト,カルトスタットなどの創傷被覆材については,今後各製品の「効能・効果」は《皮下脂肪組織までの創傷(V度熱傷を除く)に対する【創の保護】,【湿潤環境の維持】,【治癒の促進】,【疼痛の軽減】を目的とする。》に順次統一される。と明記されている。

 この文章を読めば,誰だって「V度熱傷でないU度熱傷に対しては,創傷被覆材が使えるのだな」と考えるはずだ。上記の文章から「熱傷に創傷被覆材が使えない」という解釈は出てくるはずがない。

 事実,平成13年1月23日付通知で厚生労働省薬事部会は「皮下組織用創傷被覆材はV度熱傷を除くU度熱傷に使える」ことを「薬事上」は明確に断言しているのだ。


 ところが,話はそう簡単ではないことが判明!

 保険適用上では,創傷被覆材の使用がしっかりと制限されているのだ。オイオイ,何だそりゃ?
 ちなみに,ここで絡んでくるのは,平成12年12月28日付に交付された「保険発第245号 −材料価格算定に関する留意事項について−」という文章らしい。

 つまりここでは「皮膚欠損用創傷被覆材が算定できないもの」として下記4項目を挙げている。

  1. 手術創に対して使用した場合
  2. 真皮に至る創傷用を真皮に至る創傷又は熱傷以外に使用した場合
  3. 皮下組織に至る創傷用・標準型又は皮下組織に至る創傷用・異形型を皮下組織に至る創傷又は熱傷に使用した場合
  4. 筋・骨に至る創傷用を筋・骨に至る創傷又は熱傷以外に使用した場合


 ここで「U度熱傷は皮下組織には至ってないので薬事上は使えても保険上は適用ではないと解釈すべきだ」という論議が上がったらしいのだ。

 当然,「被覆材部会」としてはこれでは困るわけで(だって論理的に矛盾してますからね),Q & A を作成して確認作業を進めたようだが,担当官はその Q & A の内容につきCommitmentを一切しなかったため,この点が現在にいたるまで曖昧なままに残されていた,という経緯があるらしい。

 どうも薬事側の解釈として「真皮以下に至る損傷用の被覆材」なら「真皮以下の損傷と,それより軽症の欠損創」に使えて当然,と考えているに対し,保険側では「真皮より深い損傷用の被覆材は真皮より深い損傷だけに使うべきで,それより軽症の損傷に使うのはケシカラン!」と考えているのだ。どうも,ここらの解釈の違いらしい。

 そしてどうもここでは,薬事側では創傷を深さによって3段階に分けて捉えているのに対し,保険側では4段階に分けて捉えている,という「分類の違い」が絡んでいるようだ。


 これは言ってみれば,高速道路の入口で「料金はいりませんよ」といわれて入ったのに,出口で「高速料金を払わないのは違法だ」と言っているようなものではないだろうか?
 「そりゃ,話が違う」と文句を言っても,「入口係がどう説明したかは知ったことではない。私たちは出口係で,入口係とは関係ない。さっさと払ってくれ」の一点張り。あんたらは同じ道路交通省だろう,と抗議しても,全く受け付けてくれない。


 しかしちょっと考えてみればわかるが,実際の外傷・熱傷というやつは,「真皮損傷と真皮以下の深さの損傷」が混在しているのは普通。むしろ,はっきりと分かれているほうが稀であり,そのように想定するのは非現実的だ。常識的には,「ここは真皮損傷だからこの被覆材,こちらは真皮以下の損傷だから別の被覆材」と分けて使うのは不可能である。
 保険側の解釈はまさに「机上に空論」である。


 結局,厚生労働省内部での「経済課」と「薬事審査課」の連絡が取れていないのが根本原因じゃないかと思うが,いかがだろうか?

 いずれにしても,この「保険側」の解釈がある限り,熱傷に創傷被覆材を使うのは困難な情況らしい。

 なぜ,一般外傷と熱傷を分けて考えるのだろうか? 両者を分けて考える論理的根拠があるのだろうか? 医学的に考えて,両者を分けて考える必然性は皆無ではないだろうか?
 厚生労働省のお偉い方々にお願いいたしますが,どうか,私の出来の悪い脳味噌にもわかるように,ここら辺を説明してください。

 そして日本熱傷学会へのお願いですが,熱傷にも創傷被覆材が使えるよう,厚生労働省に働きかけてください。

(2002/01/28)

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