消毒薬の組織障害性 −消毒薬は毒!−


 まず,下の表を見て欲しい。消毒薬ポビドン・ヨード(商品名イソジン,ネオヨジン,マイクロシールド)のうち,イソジンの殺菌力と,細胞毒性を濃度ごとにまとめたものだ。なおこのデータは岩沢篤郎ほか. ポビドンヨード製剤の使用上の留意点. Infection Control, 11, 2002, 18-24 を参照した。
 この論文ではポビドンヨード製剤間の殺菌効果の違い,細胞毒性の違いについて論じているが,最も日常的に多く使われているであろうイソジンのデータに着目してみた。

イソジンの濃度細胞毒性組織障害性
10%+++
1%+++
0.1%++++
0.01%

 イソジンの殺菌作用はヨウ素の酸化力によるものである。従ってその殺菌力は細菌にだけ有効なのではなく,生体細胞全般に分け隔てなく作用するのだ。従って,細菌を殺すことができれば,人間の細胞も殺すことができる。それが消毒薬だ。
 また酸化作用がメインの機能であるだけに,細菌と何かの有機物が共存していれば,酸化力はその有機物にも発揮されることになり,この場合は当然,殺菌力は低下する(なお,クロルヘキシジンではこのような低下は起こらないようだ)

 ポビドンヨードの殺菌力は遊離ヨウ素の濃度に依存するため,最もヨウ素濃度が高くなる0.1%で最強の殺菌力を持つことになる。しかしこれはあくまでも試験管内のデータであり,上述のように有機物の存在で効力が失われるため,臨床の場では7.5〜10%の製剤が使われている(http://www.yoshida-pharm.com/text/05/5_2_2_1.html)。

 また,上記の論文によると,ポビドンヨード製剤の細胞毒性ではヨウ素そのものの毒性とともに,添加されている界面活性剤などによる毒性も大きく関与しているらしい。


 と言うのを前提に,上述の表を見て欲しい。殺菌力のない0.01%のイソジンでも組織障害性を有していることがわかる。そして,通常使われている濃度では,非常に強い組織障害性を有していることもわかる。

 これを踏まえ,「化膿している傷をイソジンで消毒」するという行為をもう一度考えてみる。当然,化膿している傷だから有機物だらけである。イソジンにとっては殺菌力を低下させるものばかりである。となると,膿だらけの傷,出血している傷では殺菌力はかなり低下していると考えざるを得ない。
 しかし,殺菌力がなくなっても,添加物による細胞毒性は残存している。

 となると,傷を消毒すると言う行為は,下手をすると,「味方を援護射撃しようとして,味方だけを選んで撃ち殺し,敵だけが残った」ということになりかねないのだ。これははっきり言って,かなり間抜けな状況であるし,本末転倒である。


 もちろん,傷は消毒しても治ることは治る(・・・消毒しないより時間はかかるが・・・)が,それは,「消毒という医者の妨害行動」を乗り越えて,なけなしの力で何とか治っているだけだ。医者の妨害にもめげず,生き残った細胞が健気に頑張った結果として治っただけだ。

 創面を消毒するだけで,創面の大事な細胞は死んでしまうが,下手すると細菌だけは残っている」ことを医師は銘記すべきだと思う。

 ここではイソジンを例に出したが(何しろ,日本で一番たくさん使われている消毒薬ですから,代表例として例に出すのは当然でしょう),その他の消毒薬でも事情は恐らく同じだろう。「細菌だけ殺すが,創面の人間の細胞だけは殺さない」という消毒薬があれば理想かもしれないが,その作用機序から考えてもまず無理だろう。


 「そんなことを言ったって,傷にばい菌がいたら化膿するんじゃないの? 組織障害性があろうとあるまいと,ばい菌が除去できればいいんじゃないの?」という反論も当然あると思う。しかしこれが大間違い。創面に細菌がいるだけでは化膿しないのである
 すなわち,創感染にとって細菌の存在は必要条件であるが十分条件ではないのだ。創感染が成立するためには,細菌と異物・壊死組織が混在していることが必要なのである。

(2002/08/30)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください