バイオフィルム性善説(鳥谷部仮説2)


 バイオフィルムとは細菌が体外に分泌する脂質とか多糖体の複合物で,細菌が身にまとっている鎧のようなものであり,「バイオフィルムで細菌が包まれているため消毒薬も抗菌剤も効かなくなる」というのが定説となっている。要するに,バイオフィルム悪者説である。しかし,これはおかしいのではないか,という仮説である。提唱者はご存知,鳥谷部先生だ。


 人間側からバイオフィルムに身を包んだ細菌を見ると「鎧で身を固めた悪いやつ」に見えるが,細菌側から見るとどうなるだろうか。抗生物質や消毒薬の影響を受けないということは,外の世界(=人体)と直接接している部分がない,物質や情報のやりとりがない,という事になる。人体との接点がないから抗生剤の影響も受けないということになるし,人体との接点がないということは人体へも影響を与えられない,ということになるのだ。

 となると,バイオフィルムを作っている細菌は,「ひきこもり」状態にあるようなものだろう。見方を変えれば「人間に悪い影響を与えないように(=直接人体細胞に接しないように),バイオフィルムの中でおとなしくしている」ということにならないだろうか。要するに,バイオフィルムで身を包んでいてくれるから,人間はその細菌による感染が起きずに済んでいるわけだ。


 もしもこれが正しければ,バイオフィルムを無理矢理壊すのはもってのほかということになる。せかっく人間に害を及ぼさないように「ひきこもり」をしてくれている細菌を無理矢理外に連れ出しているようなものだからだ。つまり,バイオフィルムを壊してしまうと細菌は人体との接点を持つことになり,人間は細菌の影響を必ず受けることになるはずだ。

 このように考えるとバイオフィルムとは,人間と共存するために細菌が会得した「生活の知恵」ではないかという気がしてくる。

(2005/10/18)