【CVカテーテル・関節鏡・経皮的穿刺部位の皮膚消毒 塗布した消毒剤は,処置を始めるまで拭き取らない。処置等の妨げになる場合はハイポエタノール等で拭き取るが,消毒剤の持続効果がなくなる事と,拭き取る事による細菌汚染に注意する。】784ページ

 一体何を言いたい文章なんでしょうか。この文章をまとめると,「感染を防ぐためにはしっかりと消毒しなさい。でもイソジンだと色がついていて処置の邪魔になるからハイポでふき取ってもいいよ。でもハイポで拭き取ると殺菌力がなくなっちゃうよ。だから細菌汚染に注意してね」という事でしょうか。じゃあ,思いっきりバカな文章じゃん。
 要するにこの論文のインチキ性は,「まず最初にイソジンありき」と言う前提を設定している事に起因している。イソジンを使うから色がついちゃうし,色がついちゃったら邪魔だからハイポで脱色したくなる。でも脱色したとたんに殺菌力はなくなる。ジレンマと言えばジレンマだが,情けないジレンマである
 感染を防ぐためにこれらの術野を消毒することは必要である。それならイソジンじゃなくて色のつかないヒビテンを使えばいいんじゃないの? そうすればハイポで脱色する必要はないし,ハイポで殺菌力を失う心配もないし,細菌汚染も心配しなくていい。
 要するにこれは,高濃度アルコールに溶かしてある肝庇護剤みたいなもんだな。その取り扱い説明書には「肝臓の機能を高める薬ですが,肝機能が悪い人は飲まないで下さい」と書いてあるんだ。
 なら最初から,アルコールに溶かしてない水溶性肝庇護剤を使えよ。


【CVカテーテル等,ラインを皮膚に留置する場合は,ライン刺入部位にポビドンヨードゲル等を塗布してもよい。(中略)留置後の観察が必要な際は,透明タイプのドレッシング剤が便利である。】784ページ

 これは同じ段落の中の文章である。この文章の筆者は中学の国語の授業で,「前後で文脈が矛盾している文章を書いてはいけません」と注意されなかったのかな?  ポビドンヨードゲルを塗ると,透明タイプのドレッシング剤を貼付してもイソジンゲルの茶色が邪魔して留置後の観察ができなくなること,この文章を書いたお医者様はわかっているのかな?
 「留置後の観察が必要だったらイソジンゲルを使わないこと。でも,観察が不要ならイソジンゲルを使ってもいいよ」という事なんだろうけど,意味ないよ。だって,刺入部にトラブルが起きているかどうかは刺入部を直接見ないとわからないからね。つまり,「刺入部の観察が不要」という事態はありえないのだ(あなたが予知能力を持っているのなら話は別だが・・・)。刺入部の観察が不要かどうかは予めわからないのだから,刺入部の観察は必ず必要である。だから,刺入部は常に観察できないと困るのだ。観察するにはイソジンゲルは邪魔者でしかないのだ。
 「留置後の観察が必要な際は,透明タイプのドレッシング剤が便利である」なんて一般常識さえ書かなきゃ,こういう論理の矛盾は起きなかったんだよ。イソジンゲルを擁護しようとして墓穴を掘ったな


【ヨードホール製剤は幅広い抗菌スペクトルを示すにもかかわらず,その製造工程で製品自体がBurkholderia cepacia等により汚染を受ける可能性がある。】785ページ
 

「ヨードホール製剤は製造過程いい加減なので製造過程で汚染される可能性がある」という文章ですが,イソジンの場合は細菌汚染されるような事は絶対にないのでしょうか? これだけ自信を持って書いているからには,多分そうなのでしょうね。
 ところで,イソジン以外のヨードホール製剤を作っているメーカーの方からの反論はないのですか? こんなことを書かれていて,黙っていていいのですか?


【3)創傷の消毒
健康な大人でも,ちょっとした切り傷を放置しておくと,結構,ズキズキと痛む。これは創傷部位に黄色ブドウ球菌等が感染して,炎症を起こしているためである。近年,一部に「消毒剤は創傷治癒過程に影響を与えるので使用すべきでない」という論調がある。果たして,創傷部位に消毒剤を使用しなくてよいのだろうか。】
785ページ

 このトンデモ論文のハイライト,白眉とでも言うべき個所である。味わい深い文章だから,みんな,心して読むように。

 まず凄いのが前段の「切り傷がズキズキ痛むのは黄色ブドウ球菌の感染による」という個所。思わず吹き出しちゃいました。この文章を書いたのは本当に医者なんだろうか? 解剖学とか生理学とか学んだことがあるんだろうか? 素人が書けば「珍説」ですむけど,プロが書いたら噴飯物ですぜ。
 どっからツッコミを入れたらいいかわからないくらい面白い文章だが,これを書いた医者(まさか素人じゃないよね)は傷の痛みが起こるメカニズムをどう考えているのだろうか? この文章からはそれがよくわからないのである。
 「切り傷を放置しておくと結構痛む」とあるが,普通は切った直後から痛いはずだ。この痛みの原因は何なんだろう? この痛みは治療しなくていいのだろうか? もしかしたら「化膿しなければ切り傷は痛くない」という現象を発見したのだろうか?
 「黄色ブドウ球菌」感染がなければ切り傷は痛くないという論調だが,黄色ブドウ球菌は全ての人に常在しているわけでないから,この細菌が常在していない人は切り傷を放置しても痛くないのだろうか?
 もしも本当に黄色ブドウ球菌感染が切り傷の痛みの原因なら,放置した切り傷でも抗生剤を投与しておけば痛みは治まるはずじゃないのか?

 もう一度書くが,この文章を書いたのは本当に医者か? 素人じゃないのか?

 さらに上述の文章の後半。〔近年,一部に「消毒剤は創傷治癒過程に影響を与えるので使用すべきでない」という論調がある〕なんて回りくどい言い方をせずに,私を名指しすればいいのに・・・。遠慮は要らないよ。

 さらにその後に〔果たして,創傷部位に消毒剤を使用しなくてよいのだろうか〕とあるけれど,傷を消毒しないこと,消毒しなくても化膿しない事,傷の化膿は消毒とは無関係な事,傷の化膿は消毒で防げない事は,化学と生物学の基礎的知識から明かだ

 おまけに,この執筆者は外科の教科書すら読んだことがないらしい。英語の外科の教科書を読むと「傷の中に消毒薬はいれない事」と明記されているし,「目にいれても安全なものしか傷にいれてはいけない」とも書かれている。少なくとも「創面を消毒しろ」と書いてある教科書はないはずだ・・・30年以上前の教科書以外には・・・。
 この論文の冒頭に「EBMとは」と大上段に振りかざしていたが,論文を読む前にまず教科書を読め,と言いたい。教科書を読んで常識を身につけてから,論文を読むべきだと思う。

 そして確か,この論文の冒頭では,〔「しないよりしたほうがいい」とか,「昔からこうやっている」といったことは,EBMに基づいて見直しをすることが大切である〕と自分達で書いていたが,まさか忘れたわけじゃないだろうな。ならば,「果たして消毒しなくていいものだろうか」ではなく,「昔から消毒していたからと言って,本当に消毒が必要なんだろうか」と考えるべきだろう。
 人に提言する前に,まず自分でやれ,ってことだよ。

 自分で提唱しておきながら,それを自分で否定する文章を書いちゃうのは,科学者としては恥ずかしい事だと思う。最初の部分を消すか,この785ページの文章を消すか,どっちかにした方がいいと思うよ・・・科学者なら。

(2004/10/27)

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