腋臭症手術後のちょっとした工夫


 現在では「形成外科医」らしいことは全くやらなくなった「日本形成外科学会認定医」ですが,たまには形成外科医に役に立つ情報をお一つ。というか,形成外科医以外には何の役にも立たない情報ですが・・・。

 腋臭症,つまり「わきが」にはいろいろな治療法がありますが,手術治療がよく行われます。その中でもよく行われているのが,1箇所か2箇所,腋の下の皺の方向に皮膚を切開して皮膚を反転し,毛根と感染を切除する方法です。

 切除した後は切開した皮膚を縫合するだけなのですが,そこでいつも問題になるのは,皮弁状に薄くなった皮膚(毛根,感染が切除されるからペラペラになる)の固定法です。教科書には,植皮に準じて "tie-over" をしろとか,ガーゼを厚くあてて絆創膏固定しろとか,いろいろ書いてありますが,実際にはそれで皮弁を固定するのは難しく,血腫を作ったり,皮弁が壊死したりと,いろいろなトラブルが起こります。

 しかも,「美容」目的の手術なのですから,患者としては傷はできるだけきれいに目立たなくしてほしい。それなのに上記のようなトラブルが起こると傷が目立ってしまうことになります。


 そこで私の工夫です。数年前に形成外科の地方会などで発表しましたが,論文を書くつもりもないし,時間もありません。しかし,このままこの工夫をうずもれたままにしておくのも癪ですから,このサイトで公開してしまいましょう。題して「吸引固定法」です。

 多分誰も論文にはしていないと思いますが,もしも論文になっていたらゴメン! そういう論文があったら,教えてください。


 縫合する前に皮下に吸引ドレーンを留置し,それから皮膚を縫合します。ドレーンを入れる場所はどこでもいいと思いますが,瘢痕が目立たないように大胸筋に隠れるあたりがいいようです(写真の症例はちょっと真ん中よりですけどね)
 ドレーンの種類は何でもいいのですが,できるだけチューブが柔らかいものがよく,ドレーンの太さは3ミリ程度で十分。吸引バッグは50ml程度の物で大丈夫。
 この後,縫合部に透明なポリウレタンフィルム材を貼付し,念のために丸めたガーゼをあてて軽く絆創膏で圧迫固定(これは本当に軽く圧迫でよい)

 ドレーンをいつ抜くかですが,当初は3日くらい入れていましたが,血腫形成がなければ,手術翌日〜2日目に抜去しても大丈夫なことが判りました。なお,ドレーンを抜去したときに皮弁を用手的に圧迫して血腫を作らないようにするのもコツで,抜去当日くらいは「軽く圧迫」しておいてください。

 もう一つコツを付け加えると,吸引ドレーンは皮弁の真ん中に来るようにして,確実に吸引を効かせて下さい。

 さらに,この手術では術中の止血もなかなか面倒ですが,この時にアルギン酸塩(カルトスタットやソーブサン)を使うと,ほとんど止血の必要がありません。一人で両側の手術をする場合は,次のような手順になります。

まず片方の手術をして,創内にアルギン酸を詰める

もう片方の手術に取り掛かり,そちらにもアルギン酸を詰める

最初の方のアルギン酸を取り出し,止血を確認した後,ドレーンを挿入し,創縫合。吸引開始。

もう片方も同じことをする


 なお,この方法を実際にやってみて,なかなかいい方法だなと思われた方は,どうぞ,論文にしてください。もちろん,私に断る必要なんてありませんし,その論文で私の名前を出す必要もありません。

(2004/06/11)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください