消毒薬の口切りは不要


 みんながなんとなくしていて,何となく要らないなと思いつつしているのが,「消毒の口切り」である。ちなみに「口切り」というのは,薬液を使おうと思って容器のふたを開けたときに,ちょろっと薬液を流して捨てる,あの行為である。主に消毒薬に対して行われていると思う。

 もちろん,ここで取り上げるのだから不要に決まっている。しかし,文献がなければエビデンスにあらず,という「文献原理主義者」に提示できる論文というのが,ほとんどないというか,全く(?)ないらしい。こういう場合は,思考実験の出番である。


 問題を段純化すると,「消毒薬の汚染の有無」と「ビンの口の部分の汚染の有無」だけであることがわかる。それなら,場合分けは次の4通りしかないはずだ。ちなみに,消毒薬といえどもそこで繁殖する細菌が存在することは,皆様御存知の通りである。

  1. 容器の口も中身も清潔な場合。
  2. 容器の口は清潔だが,中身だけ汚染されている場合。
  3. 容器の口は汚染されているが,中身は清潔な場合。
  4. 容器の口も中身も汚染されている場合。

 この4通りでそれぞれ,「口切り」が汚染を防げるかについて考えればいいはずだ。


1. 容器の口も中身も清潔な場合
 これは封を切ったばかりの新品の消毒薬を使う場合だろう。出口も中身もきれいなのだから,何もわざわざ消毒薬を捨てる必要はない。もったいないオバケが出てくるぞ。

2. 容器の口は清潔だが,中身は汚染されている場合
 消毒薬が既に細菌に汚染されているのだから,「口切り」をしようとしまいと,出てくる消毒薬は汚染されているものばかり。やはり無駄である。

3. 容器の口は汚染されているが,中身は清潔な場合
 この場合だけは「口切り」が必要に思えるかもしれない。「口切り」することで汚染されていない消毒薬が出てくるように見えるからだ。
 しかし,「容器の口を汚染している細菌全て」が「口切り」で洗い流せるわけではないはずだ。ちょろっと液を流すだけで細菌が流れてしまうのであれば,感染対策なんてちょろいもんだ。
 さらに,ビンの内壁とビンの口は連続していて物理的に遮断されているわけでないし,ビンの口に触れて全ての消毒薬が外に出るわけでもない。ビンの口に触れた消毒薬の一部はどうしてもビンの中に戻ってしまい,これは物理的に避けられない現象である。このため,この消毒薬は直ちに〔4. 容器の口も中身も汚染〕された状態になるはずだ。
さらに言えば,「容器の入り口だけ汚染され,中身は清潔」という状態が,物理的に維持されるのか,という疑問もある。

4. 容器の口も中身も汚染されている場合
 この場合も,2. と同じで,いくら「口切り」しても,清潔な消毒薬は出てこないのだから,「口切り」は無駄である。


 それにしても,この「口切り」という儀式,どこの誰が始めたものなんだろうか。

(2004/04/14)

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