リンパ漏出のある皮膚難治性潰瘍


 極めて治療が難しいのが,下腿の難治性潰瘍があってそこからリンパ液の漏出がある場合。これは結果から先に言うと,潰瘍だけ治そうとしても無理だろう。潰瘍を湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)しようが,各種の閉鎖術をしようが,絶対に閉じないはずだ。これが閉じるのはリンパ漏出が止まった時だけである。


 リンパ液の漏出があるということは,全身の水分の出納が狂っていることである。つまり,通常であれば腎臓で処理されて尿として排泄されるはずの水が処理できなくなれば,余った分の水分は体のどこかに貯まるしかない。
 通常であればこの水は,重力の作用で体の下の部分(立位がとれる場合は下肢だろうし,寝たきりなら背部など)に貯まるし(これが浮腫だ),場合によっては上眼瞼が腫れてくることもある。下腿潰瘍から漏出するリンパ液は,要するにこういう液体である。つまり,何かの「原因」があって水を体から追い出せなくなった「結果」として,体のどこかに水が貯まるだろうし,その水が貯まっている部分に傷があればそこが出口となり,水は重力の法則に従って傷口から漏れ出してくる。

 この場合,傷口からの水の漏出が止まるのは,腎臓などの機能が改善して「水が貯まる原因」がなくなった時だけである。


 このようなリンパ漏出に伴う皮膚難治性潰瘍は治せるだろうか? これはつまり,水道管に亀裂があってそこをふさごうとしているのと同じである。
 亀裂をふさごうと思ったら,まず水道の元栓を止めて水が出ないようにするのが常道である。この時,水が溢れている状態で亀裂を接着剤でふさぐのはかなり難しいからだ。
 もちろん,水道工事の現場には水が噴出していても接着できる優秀な接着剤があるのかもしれないが,現代医学の現場にはそういう便利な接着剤は存在しないのである。

 従って,どんな優秀な被覆材を使おうと,皮弁形成術をしようと,植皮術を行おうと,「リンパ漏出を伴う皮膚潰瘍」は治らないという結果になる。


 仮に,もしも運良く潰瘍が治ったとしても,それは永続的な治癒ではありえない。「水が体のどこかに貯まる」原因が改善されない限り,水は貯まり続けるからだ。貯まった水による圧力が皮膚の強さを凌駕しなければ水はその部位で貯まる一方だろうし,その圧力が皮膚の強度を凌駕すれば皮膚の弱い部分を破って漏出が始まるだろう。
 この場合,一番弱いのは「潰瘍が治ったばかりの部分」である。

 これまで散々,「目の前の症状は原因なのか結果なのか」と書いてきたが,この「リンパ漏出のある皮膚潰瘍」でも基本な考え方は同じだと思う。

(2003/09/24)

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