37歳女性
9年前に転落事故で脳挫傷。〇〇大学病院脳神経外科で手術を受けたが,手術の10日後に転倒して同じ部位を打撲し,再手術となったらしい。その後,傷が治らなくなり,4回,傷を閉じる手術を受けたが治らず,人工硬膜が露出したままになった。
その後,同院形成外科も受診したが,「人工硬膜の細菌がゼロにならないと皮弁手術はできない」と説明されたため,家族が毎日,消毒液に浸したガーゼを創部に詰め込んで処置していて,時々形成外科を受診して細菌検査をしてもらっているが細菌数がゼロにならないため,しっかりと消毒を続けるように指導されている。
家族がネットで調べて当科を受診。
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2014年3月31日 |
人工硬膜? |
次のように説明した。
- 消毒を続けても細菌数はゼロにならないだろう。傷周囲の皮膚には常在菌や通過菌が必ず存在する以上,人工硬膜は無菌にはならない。
- 穿った見方をすれば,〇〇大学形成外科は手術をしたくない(手術の方法を思いつかない)ため,「細菌がゼロにならないと手術できない。最近がゼロになったら手術をしましょう」という現実的に到達不能の条件を出したのだろう。
- 3年間,頭蓋骨が露出している患者を診察したことがあるが,その後数年間,感染を起こさずに経過している。つまり,骨が露出しても感染はしない。
- 実際,金属プレートが数年間露出しても感染が起きていない症例は何例も経験している。
- 最初の手術から9年間,人工硬膜が露出していて硬膜表面には細菌がいるという状態が続いていると理解される。9年間,感染が起きないということは,あと9年くらいは感染は起きないのではないか。そして,その後も感染は起こらない確率が高いと思われる。
- 消毒しても意味が無いし,かえって傷が広がるだけなので,消毒ガーゼは止めた方がいい。創部の処置は,普通に水道水で洗って(普通に洗髪して),ワセリンを塗る程度でいいだろう。
- どうしても傷を治すのであれば,人工硬膜を除去して十分に周辺の硬膜を切除し,新たな人工硬膜を移植し,その上を肋骨付き広背筋皮弁で覆う方法しかないだろう。これなら頭蓋骨の欠損も修復できる。この手術は技術的には大学病院クラスの形成外科ならどこでも(?)できるとはずだが・・・