10ヶ月女児。
 4月2日,お茶を左大腿外側遠位にかけて熱傷受傷。直ちに〇〇病院皮膚科に救急搬送された。以後,同科に通院しているが,4月7日に医師から「これは深いヤケドなので必ず痕が残る。治ってもケロイドになる」と説明を受けた。
 この説明に両親は「この病院に通院しても痕が残ってケロイドになる治療しかできないということだろう。ならば痕が残らない治療をしてくれる病院を探そう」とネットで熱傷治療について検索し,翌日当科を受診した。
 当科では「これは浅い熱傷であり,1週間程度で治り,痕は絶対に残らない。ケロイドにもならない」と説明し,プラスモイスト(R)で創面を被覆した。

4月8日 4月12日 4月26日


 日本の臨床医療の現場では,患者に治療について説明するとき,医者は「キツ目のムンテラをかける」のが常識になっている。真っ先に死亡する可能性があることを説明し,最も重篤な合併症について詳細に説明する。また「治る」という言葉もご法度で,「治る」という言葉は絶対に使うなと指導を受ける。
 もちろん,患者から医療訴訟を起こされないためだ。
 (医者の眼からすると)きれいに治っているのに患者が「痕が残っている」と文句を言ってくるかもしれないから「痕は絶対に残る。醜いケロイドになる」と言っておけば,訴えられないし,最悪の合併症のことを最初に言っておけば,軽い合併症が起きても訴えられないだろう・・・と考えるわけである。

 その結果,この患者さんの両親のように「痕が残ると言われた。だったらこの病院に通院する必要はない。通院しても痕が残るなら,別の医者を探そう」と考える患者がいても不思議はない。

 「この店の料理は不味いし,食中毒になる可能性があります」と店の看板に書いてある料理店であなたは食事をしたいですか,というのと同じだ。今の医者たちは料理を食べに来た客に「この店の料理は最高に不味くて食中毒になりますが,食べましょうね」と説明しているようなものだ。これは「医者の保身のための説明」であって,「患者の安心のための説明」ではない。

 患者に説明するなら,患者がそれをどう受け取るかをまず最初に考えるべきだと思う。

 ちなみに私の外来では,熱傷患者さんには「○月○日ころに治ります。▽月▽日ころにはほとんど目立たなくなります。あなたが想像しているような痕にはなりません。安心して下さい」と言う言葉を一番最初にかけている。そして,過去の同様治療例の写真を見せて,「痕が残ると言ってもこの程度です」と説明する。患者さんにまず一番最初に「安心」してもらい,そこから治療を始めるわけだ。

 製造業者が製品の品質を保持しつつ納期を守るように,医者も患者に「治療の品質」を提示し,「治療の納期」を説明してそれを守るようにすべきだと考えている。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/322/index.htm】

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