34歳女。千葉県北西部。
 10年以上前に交通事故で鼻部を打撲。変形が気になり,〇〇大学付属病院形成外科を受診したが,鼻骨に異常はなく,外見も異常なく,治療の必要はないと説明された。
 それでも変形が気になり,平成25年に大手グループの△△美容外科を受診。診察した医師は「プロテーゼを入れればきれいな形になります」と説明し,数日後に手術となった。術後,プロテーゼが露出して感染を起こしたため,医者に事情を聞こうと受診したところ,手術をした医師は突然退職して行方が知れない,手術をした医者は以前から手術のトラブルが多くて苦情が多かったと説明された。
 院長が「病院の責任で再手術します」と説明し,プロテーゼ入れ替えの手術などを合計11回受けたが全て失敗。これ以上手術や治療は不可能と説明され,鼻の変形だけが残った。
 平成27年4月,ネットで調べて評判の良かった□□クリニックを受診。シリコン挿入,自家肋軟骨移植,人工骨挿入,耳介からの複合組織移植による鼻柱延長術が行われたが,全て失敗した。同院からの紹介で2018年4月に当院を受診。
 鼻注の瘢痕部をハイドロコロイド被覆材で覆って傷をとりあえず治すしか治療法はないと説明。

2018年4月18日


 なんとも救いようのない気の毒な症例です。
 最初の大学病院ではきちんと検査をして「変形はないので治療は必要ない」と説明していますので,それで納得すれば現在のような鼻の変形は起きなかったことになります。

 しかし,変形が気になっている患者さんはTVコマーシャルなどで有名な△△美容外科を受診します。ここで診察した医者が慎重派の医者だったら「こういう患者さんは要注意」と気が付きますが,運悪く,まだ駆け出しなのに自分は手術がうまいと勘違いをしていて患者を練習台としか思っていない医者にぶつかっちゃったのです。当然,彼は隆鼻術がしたくてしたくてたまらないから手術を薦めます。その手術で患者の希望する「変形の修正」になるかどうかなんて考えていません。頭の中は初めてできる隆鼻術のことで一杯でしょう。
 そして手術しますが,多分,鼻背部のポケットをうまく作らないままインプラントを入れたのだと思います。恐らく,どうしても鼻柱切開部が閉じられなくなっちゃったと思われます。でも何とか強引に縫い閉じますが,傷が開くのは時間の問題。そこで急遽,退職届を出してトンズラこいて患者から逃げます。

 このクズ医者君の失敗を受けて院長が手術をしましたが,最初はプロテーゼを抜去するだけにとどめて感染が治まるのを待ち,瘢痕が軟らかくなってから(多分,半年くらい経ってから),プロテーゼ再挿入をすべきだったと思います。プロテーゼ露出で感染しているので,感染巣に再度プロテーゼ(=異物)を入れれば感染が起こる率が極めて高いです。ましてやこの症例はトンズラ医者の後始末で,いわば「病院の名誉のかかった絶対失敗してはいけない手術」です。だから半年は待って再挿入に絶好のタイミングを見極めてから手術すべきだったのです。これが院長先生の最初のミス。
 ましてや,10回失敗したのに11回目の手術をするなんて,あまりにも無謀無策です。2度あることは3度ある,のたとえ通り,2回失敗した手術が3回目にうまくいく,と考えるのはあまりに楽天的。2回目の失敗の時点で,なぜ失敗したのかを探り,同じ過ちを起こさないようにすべきです。1度目の失敗はたまたま失敗しただけかもしれませんが,同じ失敗が2度続いたら,それは偶然ではなく起こるべくして起きた失敗と考えるべきです。これも院長先生の判断ミス。

 そして,患者さんは一縷の望みを掛けて□□クリニックを受診します。非常に実績のある美容外科クリニックですが,この症例については最初から負け戦覚悟の手術となります。前医で11回の手術で鼻柱や鼻背・鼻尖は瘢痕化していて正常な血流が期待できないからです。そんなところに自家骨や軟骨を入れても生着するわけがありません。生着するためには血液(栄養)が必要だからです。血流が乏しい部位に自家骨・軟骨を入れても血流がなければ壊死するか融解するだけです。耳介からの複合組織移植が失敗したのも同じ理由。「最初から負け戦」とはこういうことです。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/2936/index.htm】
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