39歳男性。千葉県在住。
 2011年7月11日,仕事中にベルトコンベアのローラーに右上肢を巻き込まれ,摩擦熱で右上背部から右上腕にかけて3度熱傷を受傷。直ちに〇〇医科大学皮膚科に救急搬送され入院となり,その後,同院形成外科に転科。9月初旬より「直ちに皮膚移植が必要」と言われたが,ネットで湿潤治療について知り,手術を拒否。退院後,当時筆者が勤務していた石岡第一病院を受診した。
 初診時,右上背部〜肩〜上腕外側にかけて30×40センチの全層皮膚欠損層を認めた。
 当科では,過去の同様症例広範3度熱傷だが皮膚移植しないで治癒した症例の経過写真を見せて,次のように説明。

 創部は「短冊カットゴミ袋」で被覆した。初回のみ1週間後に受診してもらったが,それ以降は2週間おきとなり,2ヶ月目からは1ヶ月に一度の通院とした。
 同年11月中旬から職場復帰し,普通に仕事をしている。

2011年10月3日 10月19日 11月16日
この頃,職場復帰した
12月14日 2012年1月18日 2月15日

3月14日 4月11日 4月25日
5月23日 6月20日 7月18日
8月22日 10月3日 11月14日
12月12日 2013年1月16日 2月13日
3月13日 4月17日
5月15日 拡大図
受傷から2年近くたっても,毛孔から上皮化するものらしい
9月18日 10月23日 11月27日 12月25日
瘢痕拘縮なし
肩関節の可動域は正常
知覚も正常
私にとっては最高のクリスマス
プレゼントとなった

 治療開始から2年2ヶ月かけて上皮化が得られた症例である。肩関節という,人体で最も可動域の広い関節をまたぐ全層皮膚欠損であり,事前に長期間を要するとは予測していたが,2年2ヶ月かかるとは思わなかった。しかし,右肩の動きは正常であり,仕事も普通にできていたので,これが正解だったと思う。
 患者さんに「長くかかって悪いねぇ」といつも誤っていたが,患者さんは「仕事もできるし,風呂にも入れるし,生活上困っていることはありませんよ」と愚痴一つこぼさず,最後まで治療を信頼してついてきてくれた。この患者さんには感謝している。
 治療とは医者と患者さんの共同作業だということを,この患者さんに教えてもらった。

 この症例から学んだことは多い。

  1. どんなに広い面積の3度熱傷でも必ず上皮化すること
  2. 関節部にかかる3度熱傷でも,動かしながら治すと動く皮膚が再生すること
  3. 3度熱傷であっても,湿潤治療なら知覚が正常な皮膚が再生すること(皮膚移植した皮膚は数十年を経ても鈍麻状態である)
  4. 毛孔からの上皮化は1年10ヶ月でも起こる(・・・ということは,この症例は3度熱傷でなく2度熱傷だった?)
  5. 周辺からの上皮化は一定速度では進まない。停滞した時期かと思うと,一気に進んだり,また停滞したりする。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/285/index.htm】

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