25歳弾性。警察官。
 3月20日,逃げた容疑者を追いかけていて捕まえ,もみ合ううちに右手背に怪我をした(容疑者はもちろん取り押さえた)。容疑者を処に連行した後,当院救急外来を受診し,皮膚欠損を認め,伸筋腱の一部が露出していたため,アルギン酸塩被覆材を貼付し,フィルム材で閉鎖。翌日,当科を受診した。
 初診時,左環指MP関節部背側に直径1.5センチの全層皮膚欠損を認めたが,伸筋腱は肉芽に覆われていて見えなかった。以後はプラスモイスト(R)で治療を行った。瘢痕拘縮・運動障害を残すことなく治癒した。

3月21日 拡大したところ

3月25日 3月29日 4月10日

4月18日 4月18日


 これまで何度も書いたように,このような関節可動部の全層皮膚欠損は「動かしながら治す/運動を制限しない/安静にしない」のが大原則である。
 動かしながら治すと動きに耐える柔軟な肉芽が形成され,その上に動きに耐える柔軟な瘢痕で治癒(上皮化)する。一方,動かさずに安静を保つと,動かない肉芽が形成され,動かない瘢痕で上皮化し,瘢痕拘縮を生じる。

 もちろん,安静にした方が早く上皮化するが,わずか数週間早く上皮化して動かない手になるくらいなら,ちょっと上皮化が遅くても動かせる手になったほうがいい。医者は傷が治ればそれでおしまいだが,患者さんはその後の数十年の人生をその手で生活していかなければいけないからだ。

 そういうわけで,私は患者さんに「傷が治らなくなるくらいよく手を動かしてね」と説明している。