3歳5ヶ月男児。
 10月13日夜,埼玉県で両親と一緒に屋外でバーベキューをしていて,コンロに左膝〜下腿が触れてヤケドした。直ちに近くの病院の救急室で処置してもらい,翌日から東京に戻って自宅近くの皮膚科クリニックに通院しているが,「ケロイドになるかもしれない」という医師の説明に両親が不安になり,ネットで調べて当科を受診した。
 当科では,プラスモイスト(R)で治療し,数日で完治した。

10月19日 10月24日


 10月19日の状態を見て,「ケロイドが起きるかもしれない(深い)熱傷だ」と診断する医者って,熱傷患者の治療をしたことがない医者なんだろうか。まともに熱傷治療をした経験があれば,これを見て「ケロイドが発生する熱傷」とは判断しないはずだ。

 要するに,この皮膚科医は「ケロイドが起こるかもしれないと言っておけば,ケロイドになっても訴えられないだろう」という計算を働かせて,両親に「ケロイドが起きるかもしれない」と説明したのだろう。

 その結果として,患者は逃げてしまったわけだ。

 このような説明を受けて,不安にならない患者・患者家族はいないと思う。患者や患者家族は,医者から「ケロイドが起こるかもしれない」と言われれば,「絶対にケロイドになってしまう」と受け止めるのだ。実際,このような説明を受けて,私の外来に逃げてきた患者・患者家族に聞くと,全員が「ひどいケロイドになる」と受け止めている。だから,「この病院に通院してもケロイドになる」と考え,そうでない治療をしてくれる医者を探し,逃げ出すわけだ。

 では,どういう説明をすればいいのか?

 以前の熱傷治療例を見せて(あるいは,私の本を見せて),「このくらいには治りますよ」と説明すればいいのだ。それを見て,「こんなにきれいに治るのなら満足です」という患者もいるだろうし,「もっときれいに治らないんですか?」という患者もいる。重要なのは,データを提示して,それを患者・患者家族に判断してもらうことだ。


 治療結果を判断するのは医者ではなく患者である。料理の味を判定するのは料理を作ったシェフではなく,料理を食べた客であるのと同じだ。
 医者が満足しても患者が不満ならダメな治療だし,医者が不満でも患者が満足なら治療としては成功だ。客が判断するのが「客商売」の基本であり,臨床医学は「客商売」なのだ。

【アドレス:http://www.wound-treatment.jp/next/case/hikari/case/107/index.htm】

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