整形外科医になって20年ですが、骨髄炎の診断基準なんて知りません。
 なので私が夏井先生のサイトに出会うまでに経験したこういうときは骨髄炎と診断されていたなぁという例をいくつか挙げたいと思います。
開放骨折の一次閉鎖手術した数日後、創を開いたら骨が見えちゃった。→「このままじゃ骨髄炎になる!大変だ!」→プレートを外して、血が出るところまで骨を削って、創閉鎖→また創が開いた→「このままじゃ骨髄炎になる。骨髄炎になったら敗血症になって死んじゃう」→「切断しましょう」
糖尿病の患者さんの足に瘻孔ができた。ゾンデで探ったら骨までつながっていた。レントゲンでは異常なしだけどMRIをとったら骨髄に信号変化を認めた→「はい!骨髄炎です。このままでは敗血症になって死んじゃうので、健康な骨のレベルで切断しましょう」
慢性骨髄炎と診断されている患者さんが、患部が熱を持って腫れて痛みが出た。→「はい!骨髄炎の再燃」→「骨髄炎だけど抗生剤投与だけで治まるよ」
糖尿病性え疽の患者さんで、レントゲンを撮ったら骨が溶けている。→「はい!骨髄炎です。このままでは敗血症になって死んじゃうので、健康な骨のレベルで切断しましょう」
 
 整形外科は骨髄炎を異常に怖がっています。骨髄炎になる前に先回りして切断とかしちゃうから、(糖尿病のえ疽を除いて)本当の骨髄炎をみたことがないかもしれません。
 大学病院整形外科から逃げてきた「慢性骨髄炎」患者を多数診察・治療していますが,どこに炎症があるのか,なぜ骨髄炎という診断をしたのか,私には理解できない症例ばかりです。そして,「骨髄炎は恐ろしい病気で死んでしまうから,その前に足を切断」された患者さんも多数見ています。
 そもそも,「骨髄で細菌感染が起きている」というのはどうやって診断しているのでしょうか? MRIでそれがわかるのでしょうか? 骨融解なんて血流不全でも起こりそうですが,細菌感染による骨融解像と他の原因による骨融解像は何か違っているのでしょうか?

 これは,「オオカミという恐ろしい巨大な獣がいて人間を見ると食い殺すそうな」という言い伝えが村(=医学村,整形外科村)に広く流布しているが,誰一人として実物のオオカミを見たことがない,という状態に近いような気がします。
 そして一人の村人(=整形外科医)が「オオカミが来た!」と騒ぎ立てちゃうわけです。すると,誰も本物のオオカミを見たことがないから,チワワを見てもミニチュアダックスフンドを見てもヤギを見てもオオカミだと信じてしまいます。しかも,「これがオオカミなの? ちょっと小さくないっすか?」なんて疑問を抱く村人も一人もいません。
 「こんなおとなしそうな,メエメエ鳴いているのもオオカミなんですか?」と質問をすると,「後でこいつがいきなり大きくなって人を食い殺すんだ。お前は知らないだろうが,俺は昔,先輩からそう聞いた」と説明されるから,納得しちゃって,メエメエ鳴くヤギをオオカミとして殺すのに力を貸したりするわけです。
 整形外科医です。
 整形外科医の教科書である「標準整形外科学」の骨髄炎の治療の所に切断に関して以下の様に書かれております。ご覧になられているかもしれませんが、念のために書かせて頂きます。
感染に対する防御機構が減弱している患者 immunocompromised host で全身状態が悪く、耐性菌感染で繰り返しの手術(皮質骨開窓、病巣掻把等)が無効である場合は、切断術も稀ではあるが適応となる。
 
 しかし、私は、感染状態では無く、ただ単にTKRが皮膚を破って露出をしているだけで、上司と相談の上、不全麻痺だった大腿を切断をした事があります。(以前写真を添付させて頂いたと思います。) このままいくと下肢全体が壊死する、菌が入り全身に回る、と考えていたからです。

 実際の現場では、数回の小手術等もせずに、見た感じで「これはやばい、切断しないと、全身に菌が回る。」という単なる思い込みで切断しているケースは非常に多いと思います。
 患者さんには申し訳ない気持ちで一杯です。
 近隣の複数の病院で「足を切断するしか治療法はない」と言われて逃げてくる糖尿病性壊疽の患者さんが毎月一人はいらっしゃる印象ですが,それを見ると,「下肢切断」の基準は医者によって千差万別で,それどころか糖尿病性壊疽ですらない症例もかなりいます。つまり,「切断するかしないか」の判断基準は,極めて恣意的であり,医者ごとにバラバラです。
 もちろん,私の外来でも最終的に下腿切断になる患者さんはいらっしゃいますが,糖尿病性壊疽の患者さん10人中1人くらいで,これは糖尿病の管理がうまくいかず壊死がどんどん進む場合と,糖尿病にASOまで合併した例だけです。
整形外科の先生に以下の2点を質問します。以前から疑問に思っていたものです。
骨髄炎の診断基準
下腿切断術が必要,と判断するための診断基準
 
 この2点は以前から疑問に思っていたものです。整形外科の先生(同僚や見学に見えられた先生)に質問しても答えはバラバラで,なんだか要領を得ません。
 「学会の診断基準はこうなっている」という資料,あるいは「うちの医局ではこのような基準で骨髄炎と診断しています」というようなことがあったら,是非,ご教示下さい。
 ちなみに,ある整形外科の先生に質問したところ,「紹介状の病名に骨髄炎とあったから/カルテに骨髄炎の病名がついていたから」骨髄炎という病名をつけた,と答えてくれた方がいらっしゃいました。